日本地理学会発表要旨集
2009年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 211
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国際人口移動に伴う地域の変容
中国吉林省延辺朝鮮族自治州龍井地区を事例として
*李 任官
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抄録

近年の中国朝鮮族社会はかつてのない人口移動に伴う様々な課題を抱えている。本稿では中国朝鮮族社会の現状と変化を地域研究という動態的アプローチで実証的に分析し、変化のメカニズムを解明すること、そして「龍井」という特殊な地区の事例を、中国各地における朝鮮族の移動と決して少なくてはない朝鮮族のエスニック地域変化の一例として位置づけ、朝鮮族社会に限らず地域全体に及ぼす影響に重点を置きたい。その対象地域を選んだ理由の一つ目としては龍井が中国国内で朝鮮族人口の割合が一番高い都市である一方で、中国朝鮮族の歴史・文化・教育との関係が深いことから、朝鮮族のエスニック地域の典型として十分なりうる。二つ目は、延辺の中で龍井地区の朝鮮族人口は減少傾向があり、朝鮮族社会の人口流出現象(国際人口移動を含む)がある程度反映され、その影響は無視できないほど深刻である。三つ目は、地理的に中国の東北の東に位置していながら、東北地区で現れた「東北現象」「新東北現象」などの影響を受け、背景的には中国朝鮮族の集中居住している東北の背景に似ていることで、全体の朝鮮族社会が直面した背景と問題の解釈に繋がりやすい利点がある。  本稿で扱うデータは人口移動が頻繁的であった1990-2005年の15年間を対象とし、国際環境の変化の中で考察を行った。龍井地区における「因私出国者」に関する統計は1991年から始まり、出国者数1991年の1600人から2005年には1.3万人に増加し、1991―2005年の15年間で龍井地区の出国者総人数は8.2万人以上で、龍井市総人口の26.1万人(2000年)の約三分の一を占めている。出国者の目的地から見ると韓国・ロシア・北朝鮮の三ヶ国への出国者が全体の97%以上を占める一方、出国者の目的地の分布も広がりつつある。出国者の目的(ビザの種類)を調べると「親戚訪問」が圧倒的に多い同時に増加の傾向が見られ、「就職」・「留学」のビザ種類は減少する傾向があった。そのほか、「国際結婚」「ビジネス」「労務輸出」などの多様な経路で出国する人が増えつつあった。 本研究は国際人口移動が地域に及ぼした影響を把握するために、都市部では出国経験者に対しアンケート調査を実施し、農村部では農村住民・関係者に対してインタビューを行った。 龍井地区の国際人口移動の特徴は朝鮮族をメインとする相対的に大規模であり、地理的近い日・韓・ロの三ヶ国へ移動がほとんどであり、地縁・血縁関係に基づいて増加しつつありながら、循環的な傾向を見せている。 移動者は職種に限らず幅広い分野に分布され、海外への移動は移動者個人にとっては地元の仕事を「やめる」選択に近いことであり、地域にとっては「余剰労働力問題」の解決に見えるが、結局は従業員比例の低下や人材流出の結果となり、「潜在の失業問題」に繋がる恐れがある。 海外での「高収入」は送金などの経路を通じて地元に流れ込み地域の消費を引っ張りながら地元の経済成長の面でメリットが存在する。だが、収入と消費と収入の格差を拡大させながら、地域にとっては職業の不安定と住民の海外への依存心理の並存をもたらし、再び出国を選択するなど、地域の国際人口移動の循環的なプロセスの要因にもなるだろう。 国際人口移動が龍井の農村部に及ぼした影響としては、農村部における人口減少とそれに伴う行政合併や学校の閉鎖などが挙げられるほか、農業従事者の人口の減少と住民の民族構成の変化、また農業従事者の変化に伴う農地経営方式の変化と農地の集中現象をもたらした。

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