日本地理学会発表要旨集
2009年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 311
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郊外の小規模開発住宅地区における住民属性の多様性
*西山 弘泰川口 太郎中澤 高志佐藤 英人
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抄録

1.問題意識  戦後日本の大都市圏は,1950・60年代に地方農村地域から多くの人口を吸引し拡大した。大都市圏内に滞留した地方出身者の多くは,やがて家族人員の増加と,より良い住環境を求めて大都市中心部から郊外へ外向移動を強めていった。そして,郊外には彼らを受け入れるために,多種多様な住宅地が形成されていった。ところが,従来の郊外住宅地の研究が描いてきた郊外は「庭付き一戸建て」を彷彿させる整然と開発された大規模住宅地で,住民の属性は「都心通勤」「ホワイトカラー」「大企業」「高学歴」と画一化したイメージとしてとらえられてきた。それは,これまでの郊外住宅地研究が大規模開発された住宅地だけを扱っていたため,住民の年齢や職業,学歴などが必然的に均一になってしまい,その帰結として,郊外住宅地のイメージが画一化されたものと考えられる。郊外には自地区内通勤,現業職,中小企業勤務,中高卒の人々も多く居住しており,本来はこれまでのイメージよりもずっと多様な人々が居住している。  そこで,本研究では比較的狭い範囲において様々な形態をもった小規模住宅地が混在している地区を対象として,居住者の属性を明らかにした。こうした小規模開発住宅地区は,開発時期や開発業者,敷地規模などが異なり,それに伴って居住者の属性も変化すると考えられる。本研究は,郊外が必ずしも均一化された空間ではなく,多様性をもった空間であることを明らかにし,新たな郊外像を提唱するものである。 2.調査と対象地域の概要  本研究は大規模開発住宅地が少ない,埼玉県富士見市S地区と三芳町F地区を対象地域に設定した。両地区は隣接し一つの住宅地区を形成している。開発は1965年からはじまり,1965年から1975年までに開発のピークを迎えた。そのため1965年に約1,000人であった人口は,1975年には約11,000人と10倍以上も増加した.その後は10戸以下の開発が主となり人口増加も鈍化している。現在まで対象地域の開発に関わった企業や個人は100社(名)を超えている。また土地利用も戸建住宅を中心として,共同住宅,商店,農地,駐車場などが混在している。用途地域は第一種中高層住居専用地域(建蔽率60%,容積率200%)が主であるため,住宅が密集し雑然とした景観となっている場所が多い。東京都心からの距離は約25kmで,最寄駅までは徒歩4分から15分の程度の距離にある。 アンケート調査は2008年8月,一戸建て世帯にポスティングで2800部の調査票を配布し,205通の郵送回答を得た(回収率7.3%)。またアンケート回答者の中から承諾を得た19世帯に1~2時間程度の聞き取り調査を実施した。 3.結果  回答者の年齢は6割が60歳以上であったが,30・40歳代の比較的若い世帯からの回答も得られた。入居時期は1970年代が多いもののばらつきがあり,1990年以降に入居した世帯も目立つ。年代別に入居時の購入形態をみると,1975年以前は新築による入居が多かったが,1975年から1990年までは中古と新築が同程度で,1990年以降は再び新築が多くなっている。中古の戸建住宅は,新築のものに比べ敷地面積が狭いのが特徴である。このことから,対象地域では1970・80年代において,住民の転出入が活発であったといえる。敷地面積は33.0_m2_から343.2_m2_までと幅広いが(平均102.1_m2_),100_m2_以下の割合が半数を超える。また学歴,職業など住民属性は多様で,一様にとらえることは困難である。以上のように,小規模開発住宅地区は住民の年齢や職業,学歴,戸建住宅の敷地面積などにおいて多様性がみられる。その要因は,第一に1970年前後に建設された戸建住宅において住民の転出入が活発に起こったこと,第二に開発がピークだった1960・70年代以降も,農地が少しずつ宅地に転用されて小規模な開発が行われているためと考えられる。このように,「無秩序な乱開発」として糾弾されがちな小規模開発は,地域の持続可能性の観点からとらえると,若年層の流入によって,極端な人口の偏りを防ぐ役割を持っている。また,交通アクセスの良いことや,周辺にスーパーマーケットなどの生活関連施設が多く立地することから,建替えや新規の開発が活発である。縮減が懸念される郊外住宅地にあっては,その様子にダイナミズムさえ感じる。発表当日はより詳細な分析結果を示したい。

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