日本地理学会発表要旨集
2009年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 402
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トロントにおける成長管理政策と中心市街地の変容
*山下 宗利
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抄録

1. はじめに  成長管理政策は、中心市街地と郊外の両者の持続的な発展を目指したプログラムである。計画的でコンパクトな市街地形成と豊かな自然環境の保全を行い、調和のとれた高度な社会的共通資本の整備を推進しようとするものである。そのためには従来の自治体の枠を超えたより広域的な圏域での土地利用政策や交通政策が求められ、広域調整の仕組みが欠かせないものとなっている。  モータリゼーションの進展を背景とした市街地拡張型の都市開発を通じて、先進諸国の中心市街地の一部では衰退が急速に進行している。しかし拡張型・再開発型の対処では環境の制約と経済・社会・文化的変動に適応した都市空間を維持発展させることは、はなはだ困難となりつつある。都市空間を持続的に維持発展させ、効率性とともに個々の地域に根ざした歴史・文化的要素を組み入れた高い生活の質を保証する都市空間の再形成が要請されている。  欧米諸国では既に成長管理政策を実施している事例がみられ、その一つがカナダ・トロント広域圏である。本報告では、トロントにおける成長管理政策の特徴を述べるとともに、トロント中心市街地において近年生じている土地利用の変容を検討してみたい。 2. トロント広域圏における成長管理政策  トロントでは、都市域と農村域の持続可能な成長を目指し、よい高い生活の質を得ることを目指した大規模な成長管理政策が動き出した。オンタリオ州は2005年に"PLACES TO GROW: Better Choices. Brighter Future."と題した成長管理政策を作成し、2031年に向けた将来展望を公表した。トロント広域圏とはトロントを核都市とするGGH(the Greater Golden Horseshoe)地域を指し、北米の中で最も急速な成長を遂げている地域の一つにあげられる。この地域はカナダ経済の中枢にあたり、自動車産業を中心に合衆国との結びつきが強く、今後とも大きな成長が期待されている。約370万の人口増加が見込まれ、この地域の人口数は1,150万に増加し、オンタリオ州における人口増加の8割以上をここで吸収するとの予測がある。それゆえ生活の質の向上、雇用の拡大、多様な生活に向けた基盤整備が必要とされる。また、従来型の地域政策によるひずみが表面化しており、とくに最大の都市域であるメトロトロントとその周辺における交通網の未整備や連携不足はきわめて深刻な状況を生み出している。  成長管理に向けた計画は、(1)選択と集中、(2)成長を支える基盤整備、(3)自然環境と農地の保全、そして(4)計画の実施、の四つの大項目から構成されている。それぞれに多数のガイドラインが示されている。しかしながら、広域調整の指揮を執るオーソリティの不在が課題として残されており、いかにして調整を図るかが最大の懸案事項となっている。 3. トロントにおける中心市街地の活性化  トロントはカナダ最大の都市として、また上記広域圏の核として機能してきたが、人口、商業施設、そしてオフィスの郊外化の進展により、中心性が次第に低下しつつある。PLACES TO GROW政策は、郊外のみならず中心都市の活性化を目指したものであるといえよう。ここ10数年来、トロントではウォータフロント地区を中心にコンドミニアムが林立し、景観は大きく様変わりしつつある。近年では都心周辺部のインナーエリアにおいて工場跡地を利用したコンドミニアムの建設が相次ぎ、また工場からロフト形式のアパートやデザイン事務所への用途変更もみられ、複合的な土地利用政策の下で居住者の都心回帰が進みつつある。これによってジェントリフィケーションが生じているとされる。現状では居住者の中心市街地への転居はみられるものの、生活関連店舗や公園の配置が不足し、コミュニティの確立まで至っていない。中心市街地における生活の質の向上への課題が明らかになりつつある。発表当日はトロント都心に隣接するKingーSpadina地区における近年の変容について議論したい。

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