日本地理学会発表要旨集
2009年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 406
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ハンガリー
Jozsefvaros地区の事例
*加賀美 雅弘コヴァーチュ ゾルターン
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抄録

 中央ヨーロッパ型都市においては,CBDに隣接して19世紀後半以降に造成された労働者向け賃貸住宅地区がインナーシティ化するケースが目立つ。そこでは外国人や移民,ロマなどのエスニック集団をはじめ,低所得者や失業者が多く居住する傾向がみられる。  ハンガリーの首都ブダペストにおいては,老朽化した住宅とロマの集住が顕著なJózsefváros地区がインナーシティとしての特徴を持つ地区として知られ,1990年代以降,その改善が指摘されている。  報告者は,この地区の変化を都市整備事業に着目して検討しており,今回はこうしたインナーシティが存続する背景について若干の考察を行ったので報告する。  Józsefváros地区は,19世紀後半以降,ブダペストに流入する労働者の受け皿として機能してきた。ブダペストの事実上の中央駅である東駅に近接し,第一次世界大戦以前には広大な国内各地から労働者が流入した。その結果,多様なエスニック集団が居住する地区が形成された。  社会主義時代には,特に1960年代以降,居住者の多くが郊外に造成された住宅団地に転出したために居住者数は減少した。住宅の老朽化が進む中で,1970年代以降にはハンガリー東部出身のロマの転入が目立つようになった。  政治改革後,ブダペスト市内では住宅の個人有化が急速に進行したが,Józsefváros地区では2001年時点でも区有住宅が多く残存している(26.6%;市平均8.5%)。また,第一次世界大戦以前の建物が地区全体の88%(2001年)を占めている。整備が遅れ,老朽化が著しく進み,世帯あたりの居住面積は狭く,水道やトイレが共同利用であるなど住宅設備が劣悪な居住環境が存続している。ユーゴスラヴィアの解体やルーマニアなど隣接諸国からのロマの連鎖移住も生じており,ロマの住民数は増加している。また,近年は中国人労働者の流入も起こっており,この地区への集住が顕在化している。  Józsefváros地区の住宅整備事業は,1998年に発足した都市整備会社(Rév8)によって実施されている。その際,ロマの集住地区であることから,住宅や街路などハード面の整備とともに,住民組織の強化と事業への参加の促進,住民の交流を推進するための公共施設の確保,ロマを対象にした学校教育の重点化など居住者の社会的環境の整備も同時に進められている。しかし,根強い地区イメージと,行政主導の整備事業に対する住民の不公平感など事業は必ずしも順調ではない。この地区が依然としてインナーシティとしての性格を持続させていることを,エスニック集団とのかかわりから考察することができる。

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