日本地理学会発表要旨集
2009年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 411
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地方圏におけるサイエンス型イノベーションの研究
長野県におけるカーボンナノチューブの研究開発を事例として
*野澤 一博
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抄録

研究の目的: 地域経済の活性化を目的として、地域の大学にある技術を活かしたイノベーションの取り組みが日本各地で行われている。そこでは、県などの行政機関が中心となり、地域の大学と地元企業との関係構築を促進し、新技術・新製品の開発を行っている。しかし、地方圏では企業や学術機関の集積が小さいので地域でイノベーションを起こすことが難しく、科学技術を基にした新産業創造が困難な状況であると言える。 そのような状況の中で、長野県では行政が中心となって信州大学にある技術シーズを活用した新産業創造の取り組みを行っている。本研究では、信州大学工学部遠藤守信教授のカーボンナノチューブの研究活動を事例として取り上げ、研究成果の展開状況を分析し、地域におけるイノベーションに関する考察を行うこととする。 研究の方法: 本研究では、特許庁のデータと知的クラスター創成事業の資料を基に遠藤教授の共同研究者の立地状況の分析を行い、同時に関係者へのインタビューから共同研究の内容および関係構築方法などについて分析を行った。 結 果: 特許庁のデータベースによると、遠藤教授を発明人として出願公開されている特許は2008年10月現在134件ある。共同研究先と類推される企業・機関は、2002年の39件が最も多く、近年20件程度で推移している。知的クラスター創成事業が開始された2002年以前は県外企業が合計24件、県内企業4件、と県外企業が圧倒的に多かったが、知的クラスター創成事業の成果が出始めた2003年以降の共同研究機関数合計は県外企業8件、県内企業8件と同数になっている。出願分野について、知的クラスター創成事業が始まる2002年以前は電池・キャパシタや電気関連分野の特許が目立つが、2003年以降は複合材成形やめっき関連分野の出願が目立つ。 まとめ: 研究開発の参加企業は、知的クラスター創成事業以前は県外企業が中心であったが、その後東信地域や諏訪・岡谷地域を中心として県内に拡がっており、知的クラスター創成事業の活動により、地域内にカーボンナノチューブの技術が蓄積された。成果の分野としては、県外企業を中心に電池・キャパシタなどの電気関連分野が多かったが、知的クラスター創成事業以降は県内企業を中心に部材関連分野も広がっている。これは知的クラスター創成事業の研究テーマがナノコンポジットの開発ということで、その研究成果として部材の開発が進んでいることを示している。 つまり、地域イノベーションの特徴としては、元々県外を中心に展開されていたイノベーション活動が地域機関のイニシアチブにより地域化されたものであるといえる。それは、政府の政策をきっかけとして、地域機関により技術が見い出され、地域大学と地元企業との関係構築が図られ、活動が地域内に展開していった。 その理由としては、技術の受け皿となる企業が地元にあったというだけではなく、地域機関に産学連携の経験があり、関係構築のためのマネジメントノウハウがあったという為でもある。つまり、知識の伝播のためには、地理的近接性は十分条件ではなく、制度的近接性を伴い展開されるものと言える。

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