日本地理学会発表要旨集
2009年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 414
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コンテンツ産業クラスターにおけるプロジェクト開発プロセス
半リアルタイム定期調査法による2ヶ年コンタクトアナリシス
*原 真志
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抄録

1.はじめに  文化と経済の双方向での融合が進行し(Scott, 2000),高コストの大都市に集積するコンテンツ産業に対する関心が高まり、わが国でもコンテンツ産業政策支援の議論が活発になって来ている.知識ベース集積論では,イノベーションに重要な暗黙知の共有のために対面接触に有利な近接立地が促進される側面が強調されているが(Maskel and Malmberg, 1999),間接的実証のみで,対面接触の直接的実証が欠如している(Malmberg and Power, 2005).コンテンツ産業の特徴としては,都市空間においてプロジェクトベースで多数の主体が相互作用して離合集散するプロジェクトエコロジーを形成している面が重要であり(Grabher, 2002),単に主体間のネットワークのパターンを静態的に特定するだけでは不十分である.本研究は,コンテンツ産業クラスターにおいて,プロジェクトベースでどんな主体のいかなる相互作用によって,どのようにして多様な主体が時限組織の中に編みこまれて,プロジェクトが開発され,実行されるのかのダイナミズムを明らかにすることを目的とする. 2.方法  地理学においては,主体間のコミュニケーション分析として,コンタクトアナリシスがあるが(Törnqvist, 1970;荒井・中村,1996),定常的コンタクトの分析が中心であった.報告者は,これまでサーベイ・対面調査・参与観察等の手法により,ハリウッド映画や日本のアニメ・実写のコンテンツプロジェクトにおける主要な主体間のコミュニケーションの実証を行ってきたが(原,2002a;原,2002b;原,2007),プロジェクト期間中の,確定された参加者を対象としたものであった.産業クラスターあるいはプロジェクトエコロジーの核心部分は,プロジェクトがいかに立ち上がるのかという開発段階あるいはそれ以前の試行錯誤を含む相互作用ではないかと考えられる.その検証にはプロジェクトの正式な開始以前の長期のデータ収集が必要となるが,コミュニケーションの対象範囲の特定の困難さ,膨大な量,心理的抵抗,守秘義務などの障壁から,そうした段階の長期のデータ入手は困難であった.  本研究は,調査協力者を得て,こうした問題を克服するために「半リアルタイム定期調査法」という方法を考案してデータ収集を行った.「半リアルタイム定期調査法」では,調査協力者に,日常的にコミュニケーション日誌にすべてのミーティングスケジュールを記録してもらい,それを基に1~2カ月に一度の定期的ヒアリングを実施し,各ミーティングに関する詳細な内容を聞き取るというものである.この手法により,シングルケースであるが,1年間を越える長期の大量のコミュニケーションデータの収集が可能となった.聞き取る項目としては,いつ・どこで・誰と何のために会ったかという基本事項に加え,会う契機,定例-非定例,プロジェクトベースか否か,相談・依頼の有無と方向,金銭の授受の有無,情報の送受信量と相対量,コミュニケーションの結果としての認識の変化や意思決定の有無などの項目が含まれている. 3.対象  本研究で具体的な調査対象とする松野美茂氏(現在ミディアルタ社取締役)は映画・テレビのVFXスーパーバイザー・VFXプロデューサー等として活躍しており,代表作に平成ガメラシリーズ,ウルトラマンシリーズ,SDガンダムフォース,生物彗星WoO等がある.企業に所属している時期も,企業を超えた形で次世代技術をいち早く活用するプロジェクトを起こすフリーランス的な仕事を行ってきており,またCG関連のソフト・ハード製品についての先見性が業界で伝説になっている.本研究では,松野氏に対して半リアルタイム調査法によりデータ収集を行い,分析を加えた.データ収集は2005年11月から開始し,2008年度日本地理学会春季学術大会において,2006年末までのデータの分析結果を報告した.今回は,2007年度分のデータを加えて,合計六百件強の約2ヶ年のデータの分析結果を報告するが,2006年には従来のフリーランス的な行動が反映されたものであったのに対し,2007年は松野氏が新規起業に関与していった時期であることに起因する興味深い違いが現われている.

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© 2009 公益社団法人 日本地理学会
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