日本地理学会発表要旨集
2009年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 417
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異文化の職場においてシナジーを創出するハイブリッドマネジャー
*シュルンツェ ロルフ
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抄録

Jones (2002)は、Sassenが企業のパワーとコントロールは多国籍企業本社が持っているという単純化しすぎたイメージを作ってしまったことを批判している。Jonesは、企業のコントロールは、多国籍企業ネットワークの中に広がる社会的主体のネットワークを通して広がっているという見方をしている。しかし、地理学においては、その主体の仕事や生活についてほとんど研究されていない。単なる労働者だけではなく、Peck(1996)がいうとおり、エグゼクティブマネジャーの配置も地理学的である。
ここで紹介する分析方法は個人的パフォーマンスと経営的パフォーマンスの量的分析を使った主体中心アプローチである。経営的行動、活動空間、立地決定の相互関係のモデルに基づき、アンケート調査票を作成した。アンケートは在日ドイツ商工会議所の会員名簿にリストされている外資系企業の外国人マネジャーに送付した。回答数は81、回答率は57%であった。
回答をもとに、a)外国人マネジャーの個人的パフォーマンス、b)ビジネス環境、における重要な要素を見つけだすため判別分析を行った。その結果、a)海外出向マネジャーとハイブリッドマネジャー、b)グローバル化の影響の程度の異なる2つのビジネス環境、との間の違いを明らかにすることができた。さらに、1)海外出向マネジャーとハイブリッドマネジャー、2)東京・横浜と大阪・神戸、の相違点を検討するために経営的行動に関する要素を予測変数として判別分析を行った。
1)マネジャーのタイプごとの特徴
判別分析から、海外出向マネジャーとハイブリッドマネジャーを区別する最も重要な要素は、1)言語能力、2)協力的な日本人パートナー、3)意思決定プロセスへの関与、の3つであることが明らかになった。自己評価は控えめであることも考えても、日本でビジネスをするにあたり、言語は非常に重要な要素であることは明らかである。第2に、文化変容のプロセスにおいて、即座のフィードバックというのは日本文化を持つ非常に近くにいる人間からしか期待できないため、日本人パートナーの協力が重要であるといえる。第3に、意思決定のプロセスへの関与がより多いのは出向マネジャーであることが分かった。
2)地域ごとの特徴
判別分析から、東京・横浜地域と大阪・神戸地域を区別する重要な要素は、1)企業成長目標、2)経験、3)意思決定であることがわかった。大阪・神戸ではハイブリッドマネジャー、つまり、文化変容のプロセスが進んでいる人が多い。そのため、文化的経験が最も重要で、東京・横浜のマネジャーより滞日期間が長い。現地市場での成功に焦点を当てた意思決定は立地によって異なる。大阪・神戸では外国人マネジャーは市場拡大、新製品、新サービス、新規市場開拓に関する決定を行い、東京・横浜では出向マネジャーが現地市場での成長目標を掲げる。
ハイブリッドマネジャーの文化的知識と現地の顧客や価値観に対するセンシティビティは言語能力とプライベートでのパートナーの協力によって獲得することができ、現地子会社の意思決定に積極的にかかわろうという強い意志が異文化の職場でのパフォーマンスを向上させる、と考えられる。ハイブリッドマネジャーの権限が強化されれば、本国本社から取り込むものは少なくなり、現地の職場で調達するものが多くなることになる。 アンケート調査の分析から、文化変容の程度が普通の出向マネジャーとハイブリッドマネジャーを区別する第一の要因であることがわかった。また、戦略的意図は立地によって異なることもわかった。第一のグローバル都市の外国人マネジャーの戦略的意図はグローバル化の努力と相関関係があると考えられる。一方、大阪・神戸のような第2のグローバル都市のマネジャーの戦略的意図は現地化活動で特徴づけることができる。
最後に、企業のためだけでなく、地域開発のためにもハイブリッドマネジャーの役割について、関東と関西の自治体に対するインプリケーションについて議論したい。

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