日本地理学会発表要旨集
2009年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 107
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東日本における湿性草原の植生変化
*安田 正次大丸 裕武
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抄録

はじめに
 本州中部以北の山地の高標高域には、湿性草原と呼ばれるスゲ類などの低小な草本や雪田植物群落からなる芝生状の植生帯が広がっている。この植生は多雪山地で特に多く見られ、その成立には積雪が大きく関っているとされている。近年、中部以北の山地では積雪量の減少が認められている(気象庁 2001;安田・沖津 2006など)。こういった積雪量の減少は湿性草原に変化を引き起こすと考えられる。山地の湿性草原は、その景観から観光資源として重要であるため、湿性草原の変化を検出する事は非常に重要である。しかし、これらの地域における湿性草原の変化はこれまでほとんど報告されていない。
 そこで、湿性草原の植生変化の実態を明らかにするために、航空写真を用いてその変化を検討した。

方法
 中部、関東、東北の山地で比較的大きな面積を持つ湿性草原を対象とした。航空写真は植生が判別できるもののうち、最も古いものと最も新しいものを比較した。
 航空写真はスキャナでデジタル化し、航空写真測量ソフトでオルソ化した。オルソ化の精度を高めるために現地でコントロールポイントの緯度・経度・標高をGPS測量器で計測し、それを元に精密なオルソ化を行った。計測された位置精度は30cm程度である。オルソ化した航空写真はGISソフト上で、植生境界をプロットして湿性草原のポリゴンを生成し、面積を計算した。
 なお、変化が認められた地域については現地で植生調査を実施し、既存の植生調査の結果と比較して植生種の変化を検討した。

結果と結論
 航空写真から湿性草原の面積の変化を検出した結果の一部を表-1に示す。表-1は面積の大きい順に配列してあるが、面積と変化量がおおよそ比例している。また、変化率すなわち総面積に対して消失した面積の割合は、面積と比例関係にはなかった。つまり、湿性草原の総面積が大きいほど消失した面積は大きいが、その速度は面積の大小に無関係である事が明らかとなった。
 変化率が最も大きいのは会津駒ヶ岳で、次いで平ヶ岳である。これらは稜線部に成立している湿性草原で、雪田に隣接しており植物種も雪田植生と共通のものが多く認められた。これらの地点では、湿性草原の周囲からチシマザサなどが侵入し、面積を縮小させていた。一方、変化率が低いのは尾瀬ヶ原や天狗の庭で、これらは凹地状の地形となっている。植生は高層湿原と共通種が多い。これらの地点では湿性草原に侵入しているのはダケカンバなどの木本であった。
 以上から、湿性草原の縮小傾向は涵養の状況との関連が考えられた。稜線部では涵養源が降雪や降雨に限られるため、降水量の変化が土壌水分に直接反映され、植生が変化したと考えられる。このような立地で増加しているチシマザサは乾燥傾向にある湿性草原に侵入する植物種である事からも、乾燥化が進んでいる事が裏付けられる。一方の凹地では周辺からの流入水があるため、土壌水分が変動しにくく、環境の変化が小さいと考えられる。尾瀬ヶ原におけるダケカンバなどの侵入は、いわゆる湿性遷移の一端であり、環境は大きく変化していないと考えられた。

引用文献
気象庁 2001.『20世紀の日本の気候』気象庁.
安田正次・沖津進 2006.上越山地における積雪の長期変動. 地理学評論79;503-515.
安田正次・大丸裕武・沖津進 オルソ化航空写真の年代間比較による山地湿原の植生変化の検出. 地理学評論80:842-856.

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