日本地理学会発表要旨集
2009年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 602
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斜面安定モデルと水理モデルの組み合わせによる雨畑川流域の表層崩壊危険度評価
*田中 靖
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抄録

はじめに
 降雨に伴う表層崩壊や土石流が,いつ,どこで発生しているのかを定量的に評価することは,防災の観点のみならず,流域レベルの地形発達や地域性を考える上で重要である。その基礎となる斜面プロセスの力学を扱う研究は,主に一つの単位斜面を対象として行われることが多かった。しかし近年,GISや高解像度DEMの普及により,斜面プロセスの研究成果を流域全体に当てはめることによって,観測データや現在の地形から,そのモデルやモデル内の各種パラメータの妥当性を検証できるようになりつつある。このような研究が進めば,いわゆる「地形シミュレーションモデル」(以後,LEMs)に地すべり・崩壊の項を組み込むことができ,地形発達史的観点から地すべり・崩壊の地域性を評価するような研究につなげていくことが可能になる。
 斜面プロセスのモデルを流域全体に当てはめる際に問題となるのは,検討に必要な各種パラメータの空間的分布を,DEMと同じ解像度で得ることは難しいことである。具体的には,降雨に伴う地下水位の変化,土層の厚さ,間隙水圧,基盤岩石の風化度といった斜面プロセスを検討する上で必要不可欠な項目について,DEMと合わせて解析を行うのに十分な解像度のデータを得ることは現実的でない。また,これらのデータを未来について得ることは基本的に不可能である。したがって,崩壊や地すべりといった現象をLEMsに組み込んで流域の地形発達を検討するためには,これらの点を考慮した上で,できるだけシンプルなモデルが必要であり,理想的にはDEMによる地形情報だけを用いて崩壊発生に関する情報を抽出できるモデルが要求される。
 そこで本研究では,山梨県・早川支流の雨畑川流域に対して,DEMから降雨に伴う斜面安定度の評価を行うことができるSHALSTAB (Dietrich et al.2001)というモデルを適用し,その結果について検討してみた。

方法と結果
 SHALSTABは,モール-クーロンの破壊則をベースにした斜面安定解析の考え方と,ダルシー則による地下水の流量について示した二つの式の組み合わせから,斜面上の土層の不安定性を評価するモデルである。降雨時の任意の地点の土層の厚さ(z)内における地下水位(h)の比(h/z)を斜面の不安定度の指標とし,二つの式をそれぞれh/zについて解いて二つの式をつなぐことで,下の式が得られる。
  q/T=(ρsw )(1-tanθ/tanφ)(b/a) sinθ
ここでqは有効降水量[L/T],Tは透水量係数[L2/T],ρsとρwは土砂と水の密度,θは斜面勾配,φは内部摩擦角,bは流出境界幅,aは流域面積である。すなわちq/Tは,斜面が不安定になるのに必要な最小有効降水量とTの比であり,値が小さくなるほど不安定な斜面とみることができる。また,Tの値が得られれば,表層崩壊が発生しやすくなる時の降水量を知ることができる。
 この式にもとづいて,雨畑川流域の表層崩壊危険度を国土地理院の50m-DEMによって評価した例を下の図に示す。この例では,ρs/ρwは1.6,φは45°,bはセルの幅(50m)とし,DEMから計算されるθは傾向面法で,aはD∞法 (Tarboton, 1997) によって求めた。
 この結果を空中写真判読により作成した崩壊地分布データと重ね合わせてみると,良い一致を示している。また,経験的に表層崩壊の発生確率が高いと考えられている場所(傾斜が急で,斜面の横断面が強い収束の場となっていて,相対的に土層が厚いと予想される場所)を的確に抽出できている。

文献
Dietrich et al., 2001. In: Wigmosta and Burges (Eds.), Land Use and Watersheds: Human influence on hydrology and geomorphology in urban and forest areas, Water Science and Application 2, AGU, 195-227.
Tarboton 1997. Water Resource Research, 33, 309-319.

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© 2009 公益社団法人 日本地理学会
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