日本地理学会発表要旨集
2010年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: P808
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詳細DEM画像から探る紀伊半島沖の海底地形
*鈴木 康弘中田 高後藤 秀昭渡辺 満久徳山 英一隈元 崇佐竹 健治加藤 幸弘西澤 あずさ泉 紀明伊藤 弘志植木 俊明梶 琢
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抄録

 中田ほか(本大会発表)が報告するとおり,演者らは,相模トラフから四国沖の南海トラフに至るまでの範囲において,海上保安庁により取得されたマルチナロービーム音響測深データを再解析し,従来より解像度の高い経緯度3秒グリッドDEMを作成して海底地形の変動地形学的研究を実施した.海底地形を実体視判読することによる新たな試みである.
 ここでは,東南海地震・南海地震の震源域を含む,紀伊半島沖(東経134.5~137.5°)の海底地形と活構造について現在までに明らかになった知見を纏める.

 紀伊半島南方沖の海底地形は大きく以下の3つに分類される.第1は,紀伊半島沿岸から沖合い10~20km付近までの大陸棚とその外縁斜面.第2は大陸棚斜面の沖に広がる熊野舟状海盆と室戸舟状海盆.第3はその外側にある外縁隆起帯である.これらの地形それぞれにおいて明瞭な活構造が認められる.

大陸棚外縁部:
 大陸棚外縁および大陸棚斜面は複数の氷期・間氷期の繰り返しの影響を強く受けた「多生的な地形(吉川,1997)」であり,その成因は複合的であるが,遠州灘・熊野灘・紀伊水道付近の大陸棚外縁には活撓曲が認められ,地形形成に活構造が大きく影響を及ぼしている(鈴木,2004,2010 中田,2009など).このことは茂木(1977)や中村(1985)らが指摘してきたことであるが,音波探査記録に明瞭な断層面が確認されない等の理由もあって,90年代以降は注目されてこなかった.
 詳細な海底地形観察によれば,1)大陸棚斜面全体が比較的大きな波長の撓曲崖を成し,2)その基部に小波長の撓曲崖や低断層崖を伴うことがある.3)遠州灘~熊野灘にかけては北上がりの複数列の断層崖があり,低角逆断層に特徴的なバルジ状の高まりや,明瞭な海底谷の右横ずれが認められる.4)活構造の一部は,活断層研究会(1991)や東海沖海底活断層研究会(1999)と一致するが,トレースの連続性には変更がある.5)1944年東南海地震,1946年南海地震とも関連する可能性がある(鈴木,2004).6)陸棚外縁撓曲崖基部等に大規模な地すべりが密集している.

熊野舟状海盆・室戸舟状海盆:
 熊野舟状海盆の標高は-2000m程度,室戸舟状海盆は-1200~1600m.音波探査記録によれば,活発な堆積活動が継続していることがわかる.地下地質の堆積面は大陸棚方向へ累積的に傾いている.また,両舟状海盆の南縁には北方へ傾く撓曲構造があり,第2志摩海丘や土佐ばえを隆起させている.熊野海盆の中央には志摩海脚南縁を限る活断層があり,海盆北部を隆起させている.また,海盆西部には背斜構造があり,比高300m程度の隆起帯が形成されている.

外縁隆起帯:
 土佐ばえは最大標高-200m程度と大規模な隆起帯である.これより南方では階段状に急激に標高を低下させ,標高-4600m程度の南海トラフに至る.階段状の標高差が生じている場所に活断層が位置している.この点は従来の見解と大差はないが,土佐ばえ付近には,活断層沿いに土佐ばえ舟状海盆をはじめ,長さ5~30km(平均10km),幅3~5km程度の顕著な地溝状の地形が東北東~西南西方向に連続的に並ぶ.

顕著な地すべり:
 海底地すべり地形が以下の場所に非常に明瞭に確認される.1)遠州灘の大陸棚外縁斜面を下刻する海底谷沿い(本宮山海底谷など),2)紀伊水道の大陸棚外縁斜面基部および紀伊海底谷に沿う斜面,3)室戸舟状海盆南縁の土佐ばえ隆起帯の北向き斜面,4)渥美半島南方の外縁隆起帯内の広域.

南海トラフ:
 南海トラフは標高-4000~4800m程度.潮岬海底谷と天竜海底谷は外縁隆起帯を横断し,南海トラフ北縁の活断層沿いに流路跡を形成している.北縁の活断層トレースは紀伊水道沖および渥美半島南方でそれぞれ大きく屈曲し,この部分では活断層の連続性が不良である.

 本発表は平成19-22年度科学研究費補助金基盤研究(B)(研究代表者:中田 高)の成果の一部である.

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© 2010 公益社団法人 日本地理学会
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