日本地理学会発表要旨集
2010年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: P813
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安全安心マップ作成のワークショップが地域の環境改善に与える影響
マップに記載された危険個所データを用いた分析
*村中 亮夫谷端 郷湯浅 弘樹米島 万有子瀬戸 寿一中谷 友樹
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抄録

I はじめに
 近年,自然災害や事故,犯罪など,身近な地域の安全安心の向上に寄与する取り組みのひとつとして,地域の危険個所を地図に表示し,情報を提供する取り組みがなされている.このような地域の危険個所情報が掲載された地図は,地震や水害などのハザードマップや犯罪危険個所の犯罪リスクマップ,交通事故危険個所の交通事故発生マップとして,行政から地域住民に対して提供されている.
 一方で,地域住民が行政から一方的に地域の危険情報を受け取るだけではなく,地域住民たちがみずから地域を歩き災害や事故,犯罪などの危険個所について観察することで,地域の安全安心に対する個々の関心を高め,住民間で地域の危険個所に関する情報を共有する取り組みも行われている.こうした,住民の参加をともなう取り組みは,地域住民の安全安心に対する関心を高めると同時に,事後の安全安心まちづくりに活かされることが期待され,防災ワークショップなど地域の防災・安全教育プログラムとして広く取り組みがなされている.
 しかし,住民参加型ワークショップによって住民個々の関心が高まったとしても,住民間で共有された危険箇所についてコミュニティ内で議論され,環境改善が図られるとは限らない.住民参加型ワークショップが事後の安全安心まちづくりにどの程度の効果をもたらしているのかを適切に評価し,見出された検討課題について改善策を提示する必要もある.
 そこで本研究では,地域住民と行政とが協働で,地域住民の安全・安心を向上させる活動(セーフコミュニティ活動)を積極的に展開している京都府亀岡市を事例に,住民参加型の安全安心マップ作成のワークショップの前後で,地域住民が危険であると認識された箇所がどのような場所でどのように変化したかを調べることで,ワークショップを実施した効果を検証することを目的とする.

II 調査の概要
 本研究では,2009年1月17日に亀岡市篠町において実施した安全安心マップ作成のワークショップ(2009年調査)において確認された災害や事故,犯罪などの危険箇所について,ワークショップ後の事後評価を行った.2009年調査では,居住地域における災害や交通事故の危険箇所,路上駐車,落書き,不法投棄の多い箇所,水害が起こりやすい場所が調査項目として設定され,それらの記載された紙媒体の安全安心マップが,自治会に加入している全世帯に配布された.事後評価では,この安全安心マップに記載された危険個所全265地点について,どのような点で対処されていたり状況が変化したりしているか,また,それらがどのような場所で起こっているかについて,フィールドワークにより調査した.調査は2010年6月27日に実施された(2010年調査).

III 結果・考察
 まず,2009年の調査時点で落書きが書かれた箇所において,比較的多くの落書きが消されていた.また,ため池を囲んでいる転落防止用のフェンスに付属している扉が自由に開閉できたことから,ため池へ子どもが転落する危険性が指摘されていたが,新たに南京錠によって自由にため池に近づくことができなくなっていた.つまり,町内会や自治会レベルで対応できる事項については,いくつかの改善が見受けられた.
 一方で,側溝の蓋や街灯が十分に設置されていない箇所や,歩道の段差が目立つ箇所については改善が進んでいない.また,交通量の多い幹線道路においても,依然として歩道が設置されていなかったり側溝に蓋が設置されていなかったりする箇所が多々見受けられ,改修に高額の整備費用や行政との綿密な折衝を必要とする事項については対策が進んでいない.
 以上のように,2009年調査時点から1年6ヶ月の間に改善が見られた点と見られなかった点が存在するが,上記の項目はフィールドワークで確認できたハード面での対策事項であり,防犯や交通安全の啓発活動など,ソフト面での対策も加味しながら,安全安心マップ作成のワークショップが地域の環境改善に与えた影響を検討する.

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© 2010 公益社団法人 日本地理学会
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