日本地理学会発表要旨集
2010年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 112
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土地の所有関係に起因する地方都市の問題点
山形県長井市を事例にして
*山田 浩久
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抄録

本研究では,山形県の長井市を事例にして,土地所有関係に起因する地方都市特有の問題点を明らかにする。本研究で使用した主なデータは,土地台帳(地籍簿)の閲覧調査と商業店舗経営者に対するインタビュー調査の結果である。土地台帳の記載項目のうち分析データとして利用したのは,地目,当初の所有者,現在の所有者,所有権移転の形態とその年次,現時点での面積,であり,それらから現存する各地番の土地に対して,当初の所有者から現在の所有者に至るまでの経緯を明らかにした。土地所有権の移転形態に関しては,「売買」,「相続・贈与」,「寄付」ごとに整理した。なお,土地台帳に記載された情報は個人情報であるため,本研究においても個々の地番が特定できないよう公表の仕方を制限している。
 最上川に並行して南北に展開する長井市の市街地には5つの商店街が存在する。本研究では,これらの商店街が含まれる字ごとに土地台帳の情報を集計した。人口3万弱の市街地に形成されている商店街であり,いずれも休業中の店舗が目立つ厳しい状況にあるが,大規模な改変を経験してこなかっただけに,商店街にはそれぞれの歴史的背景に基づく土地所有関係が観察される。ここでは以下に2例を示す。
A商店街とその周辺地区:A商店街は,創業の起源を近世期にもつ老舗が数件営業を続けているものの,景観的に最も衰退が著しい。同地区においては,少数の地主による大土地所有が戦前期まで認められ,戦後,「相続・贈与」によって細分化されたことが確認された。血縁的関係に基づいて所有されている土地は,非血縁者に売買されにくく,土地利用転換の自由度が低い。とくに,同地区には寺社所有地を起源とする土地が多く存在し,大規模な土地利用転換に至らない要因の一つになっていると考えられる。
B商店街とその周辺地区:B商店街は長井市の中心的な商店街であり,1980年代後半に出店した県外資本の大規模小売店に隣接している。同地区内の土地は比較的狭小で,売買による所有権移転が他の移転形態よりも卓越する。建物登記に関する調査は行っていないが,個々の店舗が小さく店舗密度が高いことが商店街の活性を高めていたと推測される。また,土地の形状は近世期以前に引かれた間口4間の短冊状区画が残存し,前面に店舗,奥に住居を配する職住一致の形態が多く見られる。
 B商店街においては,街路の幅員拡張が計画されている。同事業にはB商店街を長井市の中心商業地区として再整備する内容が盛り込まれており,再開発的な色彩が濃い。B商店街には35の商業施設が立地しているものの,うち10件(28.6%)が廃業あるいは休業中であり,街路整備による活性化が期待されている。B商店街の組合に加盟(全28店舗)する23店舗の経営者にインタビュー調査を行ったところ,すべての経営者が隣接する大規模小売店の集客力に期待しており,肯定的な回答を行った。ただし,経営者の56.5%が60歳以上の年齢であり,後継者が確定しているのは3店舗にすぎきない。幅員拡幅による商店街の再生を楽観視する経営者がいる一方で,事業の開始を機に廃業を考えている経営者も存在する。さらに,事業の開始時期に前後して,隣接する大型小売店の借地契約が満了を迎える。この大型小売店は郊外地区に出店した他社の大型小売店によって営業実績を低下させており,より広い土地を安価で提供されない限り,撤退せざるをえないという趣旨の意向を示している。このような状況の中で,休廃業店舗の土地を整理することができれば,大規模小売店が要求する土地を用意することが可能であり,大規模小売店の存続を前提にした土地所有の見直しを希望する意見も上がっている。
 地方中小都市の商業地区においては血縁的関係に基づく土地所有が残存しており,大規模な土地利用改変の障害になっている。しかし,その一方で,相続や贈与,あるいは近隣住民との売買によって市外居住の土地所有者が少ないという特徴が,従来のコミュニティを存続させる要因になっていることも事実である。

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