日本地理学会発表要旨集
2010年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: S0104
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山陰海岸ジオパークにおける地域振興と住民活動
*新名 阿津子
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抄録

1.はじめに
 「日本海形成の歴史と人びとの暮らし」をテーマとする山陰海岸ジオパーク(以下,山陰海岸)は,京都府京丹後市,兵庫県豊岡市・香美町・新温泉町,鳥取県鳥取市・岩美町の3府県3市3町にまたがる東西約110km,南北約30kmの広域なジオパークであり,海岸地形と火山地形を中心に12のジオエリアで構成されている.山陰海岸は2008年に日本ジオパークネットワークに認定され,その後,国内選考を経て2009年12月に世界ジオパークネットワーク(Global Geoparks Network,以下GGN)へ加盟申請書を提出し,2010年8月にギリシャとイギリスから審査員を迎え,現地審査を受けた.加盟が認定されれば,洞爺湖・有珠山,糸魚川,島原半島に次いで日本で4か所目のGGN加盟ジオパークとなる.
 しかしながら,山陰海岸がGGN加盟候補地となるまでの道は平坦ではなかった.というのも,学術的情報発信の欠如,住民機運の醸成が不十分であること,ジオパークの地域振興への活用が進展していないこと,ジオパークが伝える大きな物語が分かりにくいこと,ガイド養成が不十分であること等,多くの課題が指摘されており,国内選考で落選したこともある.とはいえ,国内選考落選後も,山陰海岸の各地でジオパークへの積極的な取り組みが蓄積されたことが評価され,現段階(GGN加盟審査)にたどり着いたのである.

2.山陰海岸ジオパークにおける地域振興
(1)民間部門における取り組み
 山陰海岸における民間部門の取り組みの一部を紹介すると,浦富海岸ジオエリアにおいては(株)山陰松島遊覧が小型船「うらどめ号」を導入し,洞門や洞窟を間近に観察できるコースを設定している.なお,遊覧船事業は経が岬~間人ジオエリアや香住海岸ジオエリア,但馬御火浦・浜坂ジオエリアでも行われている.食を活用した取り組みも始まった.経が岬~間人ジオエリアの京丹後宿おかみさんの会では,地元食材を使った「ジオ御膳」を提供している.神鍋ジオエリアでは地元和菓子業者が「神鍋岩流まんじゅう」を製造販売している.
 特筆すべきは,豊岡市のキャラクター「玄さん」であろう.山陰海岸の代表的なジオサイトである玄武洞の玄武岩を模したキャラクター「玄さん」は,ボールペン,ストラップ,Tシャツ,菓子等の商品に活用されており,CDも販売されている.先述の「神鍋溶岩まんじゅう」のパッケージにも「玄さん」が利用されていた.

(2)既存観光地以外の地域での取り組み
 扇の山ジオエリアに位置する鳥取市国府町上地の住民グループ「扇の里グループ」は,これまでグリーンツーリズム等を通じた地域振興に取り組んでいた.自分たちがジオパークのエリアに該当することを知り,ジオツーリズムに取り組むようになった.ここでは普含寺泥岩層を観察しながら,渓流散策や沢登りを楽しむ「わじっ子ジオパーク探検隊」が行われている.
 鳥取砂丘ジオエリアに位置する湖山池では,夏季休業中の小学生を対象とした「びっくりひょうたん島」や月2回程度の「湖山池ジオパーク探検隊」が行われている.ここでは,鳥取市が行っているジオガイド養成講座を受講し,ガイド養成講座の講師も務めるアドバイザーが常駐しており,湖山池の情報発信,ジオパネル整備やジオツアーの運営を行っている.

3.今後の課題
 このように,山陰海岸ではジオパークを活用した地域振興やジオツーリズムに取り組んでいるが,個々の地域での取り組みが中心となっており,他地域との交流があまり見られない.それゆえ,今後は広域なジオパークである点を活かし,地域間交流を促進させ,山陰海岸への理解を深化させる取り組みが必要となる.
 また,山陰海岸では海岸部での地域振興が活発に行われており,内陸部の活用が海岸部ほど進展していないのが現状である.しかしながら,海岸部のみでは季節変動の影響を受けてしまい,冬季のジオツーリズムが停滞する可能性がある.ゆえに,年間を通じて安定したジオツーリズムを提供するためにも,内陸部の活用を考えていかなくてはならない.
 さらに,隣接する観光形態(グリーンツーリズム等)との連携や人文景観の活用,ジオパーク独自の地域振興計画の立案など,地域振興面での課題は多く残されている.「理想とされるジオパークはまだ世界に存在していない」と指摘されていることから,ユニークでかつ多様性を持ったジオパーク形成に向けた地域の在り方を今後も模索していかなくてはならないであろう.

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© 2010 公益社団法人 日本地理学会
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