日本地理学会発表要旨集
2010年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 201
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都市公園における景観資源の空間構造
井の頭恩賜公園を事例として
*杉本 興運
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抄録

研究の背景と目的
従来からの伝統的な地理学では、景観を地域の意で捉え、その変容過程を分析する研究が数多く重ねられてきた。一方、建築学や造園学などは客体としての景観に焦点を当て、インフラの計画や整備へ応用しようと努めてきた(人文主義地理学でいうところの景観は景域とされている)。後者に関しては、環境の美的価値を始めとするアメニティ重視の潮流を背景に、計量心理学的アプローチで景観を評価する景観工学において発展している。
上記の流れをふまえつつも、本稿では行動科学としての景観研究に焦点を当てる。それは、景観の価値は人間行動と環境の相互作用により生じるという立場であり、現地における人間の環境知覚を主眼においた景観認識・評価研究といえる。このことは、観光地や行楽地のようにゲストとしての利用主体が訪れることを前提とした地域において、環境の資源性を評価する上で特に重要なことである。海外では国立公園を主な対象として、観光、レジャー、レクリエーションといった分野でも研究が進められてきた。
具体的には、観光地の来訪者に対し、一連の観光行動の中で特定のテーマに沿って風景写真を撮影してもらい、その傾向を分析するという方法がとられている。これはVEP(Visitor Employed Photography)と呼ばれている。観光行動としての写真撮影はグローバルスタンダードであるため、評価者の自然な振る舞いによってデータが集められるという利点がある。また、評価対象を画像のデータとして集められ、それらを定量的に分析することが可能である。日本では、主に都市工学や造園学の分野で、写真投影法という名で研究が蓄積されてきた。
しかし、従来の研究ではどのような対象が評価されているかといったことに深く言及しているものの、地域の地理特性や資源の空間分布という視点を欠いている。観光利用という側面から地域固有の資源性を評価するためには、評価対象の詳細な空間分布や地域の社会・文化的背景なども総合して分析しなければならない。よって本稿では、ある特定のミクロスケールな余暇空間において、景観概念を鍵とし、その資源の空間構造を明らかにする。
対象地と調査方法
本研究では都立井の頭恩賜公園の井の頭池エリアで調査を行った。この地域は、武蔵野の三大湧水地の1つであるという自然条件を基盤として、弁財天などの歴史的な建造物や、露店、アート、パフォーマンスなどの若者文化を内包した行楽地としての顔をもっている。
次に調査方法であるが、20から50代の男女12名にGPS、デジタルカメラ、対象地の地図を携帯させ、良い印象の風景や対象を自由に撮影してもらった。調査後、補足資料として簡易なアンケートをとった。そして、得られた写真を種類別(人間活動、動物、植物、管理物、構造物、園路(またはビスタ)景、水景、広場景、その他)に分類し、GIS上で分析を行った。なお、周遊の仕方によって評価対象が異なる可能性があるため、2通りのコースをあらかじめ定めた。地図にはそれぞれ1つのコースが記してあり、被験者はそれに沿って池を周遊した。また、個人の撮影行動の中で、約8割以上が同じ対象物または構図で撮影された写真が連続している場合、始めに撮影されている写真以外は分析から外した。調査日は2010年6月28日(日曜日)である。
分析結果
写真が最も集中して撮影されていたのは、「井の頭池中央の橋上」であった。そこでは、「水景」を中心として、ボート、動物、ビスタ、人など、多様な対象が評価されていた。このことは、遠くまで開けた水辺景観の資源性の高さと、閉鎖的な園路から開放的な橋上への空間の移り変わりが、周遊する観光者の感動を強く生起しているためと考えられる。
次に撮影の集中度が高かったのが、「お茶の水」と呼ばれる湧水(分類では井戸状「構造物」)である。付近の看板が情報提供の役割を果たし、観光者の興味を惹き付けている。
また、際立って特徴的なのが「人間活動」の撮影地点であり、井の頭池北東の園路一帯に多く分布していた。ここでは、アートやパフォーマンスの様子を撮影したものが多く、アンケートの結果でもこのような人間の文化活動を好印象にとらえている傾向にあった。

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© 2010 公益社団法人 日本地理学会
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