日本地理学会発表要旨集
2010年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 202
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近年の日本のフットパス事業をめぐる関係構造について
*泉 留維平野 悠一郎
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抄録

研究の概要
 近年、日本各地のフットパス事業は、旧来、村落共同体の通行や生活の場として用いられてきた「里道(りどう)」等を、域外からの観光客を含めた散策路として再整備する形で主に展開している。フットパスを訪れた外部の人間は、地域の暮らしや生業の中で生まれた道を歩くことで、自然の美観と同時に人間生活を含めた原風景を体感することができるため、エコ・ガイドを伴う原生自然環境のウォッチングや、マス・ツーリズムによる名所巡りとは異なる趣向をもつものとなる。また、地域の居住者にとっても、訪れる外部者との交流を通じて、自らの暮らしや地域の魅力の再発見に繋がり得る。これらの結果として、内外からの地域おこしを促すことが期待されている。
 本研究では、幾つかの事例(北海道根室市・白老町・黒松内町、山形県長井市、長野県小布施町、山梨県甲州市、神奈川県鎌倉市)の分析を通して、こうしたフットパス事業が、どのような社会的文脈において発展し、またどのような問題を抱えているかを明らかにする。
研究内容
 これまでの各地のフットパス事業においては、「2つの軸」(フットパス周囲の地権者の数、地方自治体の積極性)と「4つのアクター」(自治体、NPO&ボランティア、地権者、利用者)が織りなす関係構造が、その発展過程や問題発生を説明するカギとなっている。
 第1の軸である「地権者の数」は、土地の私的所有権の存在と、その占有性の強弱と言い換えても良い。フットパスの整備にあたっては、私有地が少しでもある場合、通過地の所有者はもちろんのこと、周囲の地権者の同意が求められるため、この数が多ければ多い程、事業者による調整が困難となる。また、土地占有権の意識が強いとさらに困難となる。この点については、関連地権者の少ない北海道の事例と、本州の事例が好対照を描いている。
 第2の軸である「地方自治体の積極性」は、営利に直結する訳ではないフットパス事業の展開にあたって、補助金や事務局の設置といった運営面に大きく作用する要因となる。また、上記の地権者との調整や、他の地域おこし活動との連携といった面においても、重要となってくる。その反面、縦割り行政の弊害や、事業としての小回りの効かなさ等、幾つかの問題点の発生も促すことになる。
 筆者らの調査では、こうした地方自治体が積極的に関与する事例と、そうでない事例が見られた。後者の場合、フットパス事業を主導しているのは、当地の地域おこしを目指すNPO等の非政府・ボランティア団体である。このタイプの事業主体には、域外にあって知見提供する人々と、当地の居住者・地権者双方が含まれており、行政とは距離を保ちつつ、それぞれの理念に基づいた事業を進めている。一方、フットパスの利用者は、行政やNPO&ボランティアの主催するイベントへの参加を通じて、歩く楽しみを享受している。しかし、利用者の増加は、事業者・地権者との交流のみならず、事業者側の理念にそぐわない行為や、地権者のプライバシーの喪失といった矛盾を抱えることにもなっている。

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