日本地理学会発表要旨集
2010年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: S1906
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サンフランシスコ・ミッションベイ地区における多主体連携活動
*山本 佳世子
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抄録

1992年6月に地球サミットで採択された行動計画「アジェンダ21」では,人間活動と生態系における水辺域の重要性に着目し,2020年には世界人口の約3/4が沿岸に住むとして,「沿岸国は,自国の管轄下にある沿岸域および海洋環境の総合管理と持続可能な開発を自らの義務とする」 と記載された.しかし水辺空間は,人々が遊ぶ場所,憩いの場所としてだけではなく,その近隣地域は居住地域やオフィス街としても人気が集まっており,人間の諸活動と水環境保全のバランスを考慮する必要があるといえる.これらを踏まえ,本報告では,米国サンフランシスコのミッションベイ地区における多主体連携による地域活動の展開について紹介する.
サンフランシスコ湾に面したダウンタウンに隣接するミッションベイ地区において,総面積303エーカー(約127ha)に住宅6,000戸,カリフォルニア大学サンフランシスコ校,バイオテクノロジー等の業務・商業施設,ホテル等の整備が予定されている再開発事業計画(事業費約20億ドル)があった.1981年にデベロッパーであるカテラス社は,この地区における低密度の郊外型住宅と商業施設の構成案を提案したが,サンフランシスコ市に却下された(ワーナケ案). 1983年にも同社は,イタリア・ベニスのような運河を造ってその周りに42階の超高層オフィスを建設する計画を企画し,アーバンデザイン賞を受賞したが(ペイ案),周辺住民はサンフランシスコ湾の眺望を遮るなどの理由から猛反発した.このことによりカテラス社は,またもや計画を取り下げることになった.また当時のダイアン市長は,1984年10月に,「超高層建築は好ましくない.アフォーダブル住宅(低所得者向け住宅)を含める必要がある.」とカテラス社に書簡を送り,このことが新たな市民,デベロッパー,市の三者の開発計画の策定の出発点となった.
その後は市民参加の下で計画策定が進められ,住民参加第1案(1987年),住民参加第2案(1990年)が提案された.そして1991年に市とデベロッパー間で開発協定が結ばれたものの,経済情勢の変化から計画は凍結されたままであった. 1996年には開発協定が破棄され,1998年にカリフォルニア大学サンフランシスコ校のキャンパスを立地させる再開発地区の決定がなされた.
この間,市民側は,アフォーダブル住宅の確保や環境保護の目標を掲げて,住民投票で制度化されたプロポジションMに則って都市開発の総量抑制を行い,再開発計画の策定に参加して市民の意向を取り入れた計画策定に取り組んできた.またこの地区の開発では市および郡は税金を支出しないことになっているが,この理由は,これらの近隣地域では開発が行われることにより,さらに多くの不動産税をもたらすようになるためである.このようにして生じた不動産税の追加税は,この地区のアフォーダブル住宅供給・近隣地域の改善(街路・下水整備)や市の全市的事業に使われることになっている.ミッションベイ地区の不動産所有者は,特別税地区契約を通じてすべてのオープンスペース(公園・道路等)の維持管理費用を負担しなければならない.このようにミッションベイ再開発計画は市民が主体となって策定し,まちの管理も地域が負担することになっているため,いわゆる独立採算制の方式が採られているものといえる.そしてデベロッパーの負担のほかには,NPOが事業主体となって住宅整備を行うこともある.
今後は,たとえ都市地域であっても,有効な水環境保全・管理を行うためには,森林・河川・海という水の流れに沿った流域管理の取り組みや,多様な生物の生息空間としての水と緑のネットワークの構築を行うことが必要である.また専門家・研究者,行政,開発業者だけで水辺域の再生・整備を行うのではなく,市民意見の反映をどのように行っていくのかも大きな課題となる.
そして以上で述べたことを実現していくためには,行政,市民,NPO,事業者,研究者・専門家などによるパートナーシップが重要であり,さらに市民参加を進めるためには一般社会に向けての環境教育や普及開発活動が必要であるといえる.そのためにはまず,いかに上記のような多主体連携を構築し,これに基づく活動を推進していくことができるのかが重要な課題となる.

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© 2010 公益社団法人 日本地理学会
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