日本地理学会発表要旨集
2010年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 219
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大規模酒造業者と酒米生産者の提携関係におけるオルタナティヴ性
*伊賀 聖屋
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抄録

日本では,食のグローバル化・工業化を背景として,小規模な食品企業による良質食品市場の形成が進展してきた.しかし一方で,大規模な食品企業を軸とした良質食品の生産・流通も近年活発化してきている.そのような大規模企業主導のオルタナティヴな食料供給ネットワーク(以下,大規模AFN)では,「特定産地との原料農産物の契約栽培」や「消費者への直接販売」などが展開されており,一見しただけでは,小規模企業を核とするAFN(以下,小規模AFN)との差異が不明瞭である.ここでの両者の差異は,単なるネットワークの規模の違いだけであろうか.おそらくそれは,「アクターの行為の社会的・領域的埋め込みの度合い」や「アクター間の取引における公正性」,「製品の質の評価基準」とも関連しているものと考えられる.すなわち,「ネットワークの社会的・空間的構造がアクターの行為に与える影響の強弱」や「取引におけるアクター間の権力関係の有無」,「質に占める商業的意味合いの強弱」によって両者の差異は規定されていると推察される.

AFNをめぐる従来の研究では,特定の地理的空間に立脚した比較的小規模なAFNに主な関心が寄せられてきた.それゆえ,その競合相手ともいえる大規模AFNが具体的にどのような性格をもつものなのかについては十分検討されてこなかった.大規模な食品企業が良質食品市場に参入し,「食料の地理」がより一層曖昧な様相を呈している昨今にあっては,一見同様の良質食品を供給する大規模AFNと小規模AFNの社会的・空間的・経済的差異を査定し,AFNにおける「オルタナティヴは何なのか」を問う必要がある.

そこで本研究では,大規模AFNにおけるオルタナティヴ性alternativenessのもつ意味を,「取引される製品の質」や「ネットワークの質」の観点から検討する.具体的には,1)良質食品を市場投入する大規模な食品企業が「良質」概念をいかに捉え,その実現に向けどのような原料生産・調達体系を構築しているのか,2)そこでの企業と原料生産者との連関には具体的にどのような個人的紐帯や権力関係が認められ,それらは各アクターの行為にどのような影響を及ぼすのか,3)大規模AFNにおける「製品/ネットワークの質」の特徴が,「小規模AFNにみられるそれ」(伊賀 2008)と具体的にどのように異なるのか,という諸点を明らかにする.

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© 2010 公益社団法人 日本地理学会
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