日本地理学会発表要旨集
2010年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 307
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中国内蒙古西部、烏蘭布和沙漠東縁における地形変化と沙地移動
*大月 義徳西城 潔蘇徳 斯琴関根 良平佐々木 達
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抄録

1. はじめに
 中国内蒙古自治区における土地条件劣化の一事例として、同自治区西部、黄河左岸、烏蘭布和沙漠東縁の沙地農地境界の土地条件変化および居住農牧民の土地利用・生計維持手段変化に関わる共同現地調査を行っている。本発表は、このうち沙地の前進移動を含む地形変化の実態について報告することを目的とする。調査対象地域は、烏海市街の西方約10 km、阿拉善左旗 巴彦木仁蘇木 巴彦喜桂集落付近に位置する。同集落付近では、防砂植林樹木が砂に埋没している状況が数箇所で認められ、沙地前縁の近年の移動が予想される。烏海における年平均気温は9.3℃、年平均降水量は162 mmとされている(内蒙古自治区地図制印院, 2006)。
2. 沙地前縁の埋没河成段丘と完新世前期以降の沙地前進量
 集落背後の沙地前縁付近には4 km前後あるいはそれ以上の区間にわたり、沙地に埋没した河成段丘面・段丘崖が認められる。段丘堆積物はシルト主体の細粒砂~細粒シルトからなり(図)、周囲の風成砂丘砂(極めて淘汰良好な中粒砂主体)とは明瞭に異なり、また付近の黄河現河床堆積物と類似する岩相を有する。段丘堆積物最上部から、Radix aff. plicatula Benson, Gyraulus aff. albus (Müller) の淡水産貝化石2種が見出される(元東北大学総合学術博物館 島本昌憲博士の鑑定による)。段丘堆積物最上部の腐植層2層準、上記貝化石2種、合計4点の14C年代測定を実施し、7.2~8.6 ka(δ13C補正済)の年代が明らかになった。これらの値は、内蒙古地下水ヒ素汚染研究グループ(2007)によって河套平野北縁、最低位段丘堆積物から得られた年代値8,050±170 BPとおおむね一致する値といえる。
 本研究の調査地域において過去約8,000年間の沙地前進量は、段丘崖から現在の沙地前縁に至る約400 m.(北東方向)、また砂丘砂に埋没する河成段丘面の広がりの詳細は不明ではあるが、段丘面の埋没地点から現在の沙地前縁まで北東方向に1,500~2,800 m程度以上と推定される箇所がある。
3. 近年の沙地前進速度および砂丘の地形変化
 巴彦喜桂は戸数約40の回族集落であり、主として農牧業を生業とする(関根ほか発表、当学会要旨)。住民への聞き取りによれば、3月末~6月にかけて砂嵐・飛砂が著しく、過去数十年にわたり集落背後の沙地が集落方に前進している実感を有する住民も少なくなく、放牧用草地が沙地に埋没したとの証言もみられた。現在、沙地に埋没する樹木は、1958年以降、ヤナギ類を主とする防砂植林によるものであること、また1980年代半ばの旧堤防設置直前までは、黄河の河川氾濫水が集落内、場合によっては集落背後の段丘崖に達していたとのことから、その後の沙地移動量を考慮すると、近年において1~10 m/yr程度の速度で北東方向への沙地前進が生じていた可能性もある。
 他方、調査対象地域など烏蘭布和沙漠東縁全体において、バルハン砂丘を含む砂丘の非対称な斜面形状から、北西風の卓越による砂丘形成が推定され、このことは調査地に比較的近く入手可能な吉蘭泰(阿拉善左旗)気象データにて、3~6月における強風(日最大10分風速10m/s以上の風)時の風向がNNW-WNWに集中することと一致する。これより本地域の沙地移動の主体は、この卓越風によるものと考えられるが、上述した沙地前進量・前進速度の方向とはほぼ直交する。また、2008年9月~2009年9月にかけて沙地が数m前進し、道路の埋没がみられる地点もみられる一方で、2009年9月現地調査と2004年10月の衛星画像によるものとで沙地前縁位置に大きな差異を見出し難い箇所も存在する。以上のように、沙地移動方向、真の沙地移動量、あるいは砂丘の体積変化量等のより明確な見積もりが、今後の課題のひとつと捉えられる。

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