日本地理学会発表要旨集
2010年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 308
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中国内蒙古西部,烏蘭布和沙漠東縁における土地利用と農業経営
急拡大したヒマワリ栽培を中心に
*関根 良平佐々木 達蘇徳 斯琴大月 義徳西城 潔
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抄録

 本報告では、中国内蒙古自治区においてより乾燥度の高い地域である、同自治区西部の烏蘭布和沙漠東縁かつ黄河沿岸にある沙地農地境界に位置する農村をとりあげる。本報告の目的は、黄河流域における灌漑農業の現状を確認しながら、世帯レベルでのヒマワリ栽培の経営状況を把握し、それを可能とした地域的な特徴や予測される問題点について検討することである。当地域における近年の沙地前進速度や沙地前進に伴う土地利用変化、ヒマワリ栽培への特化および居住民の生活環境変化については大月ほか(2009)においてその概要を検討したが、本報告では世帯レベルでの実証的データをもとにヒマワリ栽培の展開経営状況を把握し、それを可能とした地域的な特徴や予測される問題点について検討する。
 阿拉前左旗の巴彦喜桂(モンゴル語で「豊かな森林」という意味)集落は約40世帯からなり、回族・蒙古族・漢族で構成される。元々は蒙古族中心であり、1980年代までほとんどが羊を中心とした牧畜を営み、現在沙漠化している村の西部も草地として利用され、黄河河岸も同様に草地として利用してきたが、1980年代後半になると沙地前縁の移動に加え山羊の過放牧により西側の草地が消滅し、蒙古族は次々と移住し回族の住民が構成上増加した。農業生産については黄河の氾濫が頻繁にあり農地としての利用には不向きであったという。
 また、当集落でも周辺地域と同様1998年から農地/草地分割政策が実施、かつ草地(実態はほぼ沙漠化)についてはやや遅れて2006年から形式的に禁牧政策がとられ補助金が支給されるようになるが、1990年前半から徐々に各世帯でヒマワリ栽培が導入・展開していった。そして2003年に新たな堤防が建設される。このことは、農地分割によって各々の地所が確定したのに加え、新堤防の建設によりその集落側の農地が河川の氾濫という自然災害リスクを減じるとともに、黄河側の農地は氾濫がなければ収入に結びつく農地として位置づけられるという効果をもたらした。結果、各世帯は1990年代後半の牧畜業の崩壊という事態を、ヒマワリを導入した農業生産への転換によって対応したのである。
 世帯レベルにおける農業・牧畜の経営状況をみると、ヒマワリはこれまで報告者らが検討してきた酪農などに比べて高い収益性のある品目であり、沙地の前進によって放棄された住宅や塩害のみられる農地が散在する同じ集落内に、周辺地域内でトップクラスにある生活レベルの住民が居住するという、ある意味で特異な状況が現出している。ただし、この状況は持続的なものではないことは明らかである。これまで新堤防建設による洪水リスクの回避や、時を同じくして黄河の流量が減り、少なくともここ10年は大きく氾濫することがなかった(と住民は認識している)ことで、黄河河岸のヒマワリ栽培農地を継続的に確保し、あるいは拡大することが可能であったが、堤防周辺の農地(特に集落側)における収量が年々低下していること、これまでは化学肥料と農薬の投入量を増加することでそれに対応してきたこと、これからもそれを継続していかざるを得ないという悪循環、を住民自身も認識している一方で、それを解決しうる有効な方策を持ちえるわけではなく、化学肥料・農薬多投以外の何らかの対応をしているわけでもない。強いていえば、経営的な対応としてのさらなる規模拡大である。 また、現在は高収益をあげているヒマワリ栽培ではあるが、その販路は結局のところ「经纪人」と呼ばれるブローカー(仲買業者)に依存しているのが実態であり、所得形成・世帯維持戦略のヘゲモニーを彼ら住民が持ち合わせていない。
 このように、真の意味での「三農問題」の解決をめざすのであれば、それが経済的側面のみならず地域環境にとって持続可能であるのかどうかが問われていることをこの事例は物語っており、そのための適切な施策のあり方を考える必要がある。

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© 2010 公益社団法人 日本地理学会
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