日本地理学会発表要旨集
2010年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 309
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ジンバブウェ再入植地における入植者の保有地拡大に関する研究
*井戸 雄大
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抄録

南部アフリカのジンバブウェでは、植民地期に白人入植者が制定した人種差別的な法律によって、大規模なアフリカ人の土地収用が行われた。土地収用されたアフリカ人は、気候環境の厳しい地域を原住民保留地として指定され、そこに強制移住を強いられることとなった。このように人種に基づく土地所有形態が固定化され、アフリカ人は周縁化されていった。原住民保留地は、人口増加等によって深刻な土地不足が発生し、生活環境が著しく悪化している。独立後、収用された土地を取り戻すべく、政府は白人が所有している土地を買い取り、アフリカ人の土地無し層や独立戦争を戦った退役軍人に分配するという再入植計画を推進した。2006年までに、再入植計画によって、約20万世帯以上が土地を獲得したといわれている。再入植計画は、脱植民地化の重要な過程として認識され、獲得した土地をいかに管理するのかという点が注目されている(Moyo, 2006)。本研究の目的は、土地を得た人々の土地利用の実態を国家の政策の変遷という視点を加えて議論するものである。 再入植計画が実行されたシャンバ県ムフルジ再入植地M村の人々は、政府よって5haの農地、放牧地、家等生活に必要なインフラを与えられ、近隣のコミュナルランド(旧原住民保留地)や様々な地域から再入植を果たしている。彼らの保有する土地の実測調査や航空写真から、すべての世帯で、保有地を隣接する林内放牧地に拡大していることが明らかになった。さらに、保有地の利用状況は様々で、豊富な労働力を用いて土地を利用する世帯が存在する一方、世帯によっては保有面積の40%しか耕作していない例も見られた。各世帯が村内近隣の農業適地に保有地を拡大したために、林内放牧地の新たな開墾は、限界に達している。そこで、近年わずかに残された農業適地をめぐる争いが頻発してきている。この土地争いの調査から、利用する予定のない土地の囲い込みも行われていることが明らかになり、土地の囲い込みが頻発している。 さらに、この住民の保有地の拡大の方法は、2000年を境に大きく性質が変化しており、第2世代や生産拡大をもくろむ世帯が、村から遠方の林内放牧地に次々と農地を開墾するにとどまらず、新村が再入植地内の未利用地に建設されている。この新村には、近隣のコミュナルランドの土地無し層や再入植した世代の子孫が新たな生活を営んでいる。 新村建設や遠方の林内放牧地の開墾の背景には、国家の地域行政機構の再編によって、2000年より伝統的首長が地域の統治に公式に組み込まれたという背景が存在していた。この伝統的首長による土地管理が行われて以降、林内放牧地へのアクセスが緩和され、土地不足に苦しむコミュナルランド住民に対しても土地が平等に分配されたと考えられる。しかし、林内放牧地の減少は、今後の住民の生業活動に大きな影響を与えると考えられる。

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