日本地理学会発表要旨集
2010年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 311
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紛争復興・開発地域における労働市場と職業訓練
~南部スーダン・ジュバを事例にして~
*大和田 美香
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抄録

1.はじめに
 開発途上国への支援のなかでも、人材の能力強化や生産性向上につながる教育分野への支援の重要性は大きい。特に職業訓練は就業や起業と直接の関連性が高く、労働市場のニーズに対応した人材の育成と供給の役割を果たすことが期待される。本研究では紛争国の復興・開発期における効果的な職業訓練とは何かを、事例地域である南部スーダンの労働市場の把握もふまえ、訓練生の要望と、雇用主の意見の聞き取りを行った上で考察する。

2.南部スーダンにおける労働市場と職業訓練
 スーダン国では南部と北部の対立から第一次内戦(1954~1972年)、第二次内戦(1983~2005年)が起こり、2005年に南北包括和平合意が署名され平和が訪れた。現在、南部スーダンには自治権が認められている。労働人口のうち約8割を第三次産業、約2割を第一次産業が構成しており、第二次産業はわずかである(JICA, 2007)。インフラ整備が急務であることや、開発援助機関の本部の多くが所在することなどから今後復興・開発が進むうえで特に人材ニーズの高い業種は建設業、自動車整備業、ホテルサービス業であると考えられる。これらの業種の企業への聞き取り調査から、従業員の半数以上が外国人労働者であること、高い職位になるほど外国人労働者の割合が高くなること、人材の採用に関して英語の言語能力が重要であることが分かった。新たな国づくりが進められる中、技能労働の多くが外国人によって担われており、自国での技能を有する人材育成が必要である。また、紛争直後のため地域の住民が生計を向上させるための基礎的な技能訓練も求められている。 このような要請から南部スーダンで日本の独立行政法人 国際協力機構(JICA)による「基礎的技能・職業訓練強化プロジェクト(英語名Project for Improvement of Basic Skills and Vocational Training in Southern Sudan, SAVOT)」が実施中である。公的訓練実施機関と民間訓練実施機関の能力強化を行っている。訓練卒業生への追跡調査(SAVOT, 2008)と満足度調査の結果、卒業生の72%が訓練後就業しており、雇用に貢献していること、59%で収入が増加しており生計向上に寄与していることが分かった。一方54%が長期あるいは短期の契約ベースで働いており、不安定な就業であることも分かった。今後の改善のための要望について、訓練卒業生からは起業の支援、より高いレベルの訓練の実施などが挙げられ、雇用主からは訓練期間の延長、実践を重視したカリキュラムの編成を望む意見が多かった。また、プロジェクトでは除隊兵士の社会復帰のための訓練も行われた。

3.おわりに
 これらの調査からプロジェクトでは、ジュバの雇用市場において、産業の現場で中核的な役割を担う部門従業員層と起業者層に人材を育成し送り出していることが分かった。また、南部スーダンにおける職業訓練の課題と提言として、(1)政策と資格制度が定められたうえで、(2)公的・民間訓練実施機関が人材の受け手である産業界との結び付きを強め市場のニーズに適したカリキュラム改訂をすること、(3)卒業生の起業支援体制を強化することが挙げられる。むすびに、紛争復興・開発期における職業訓練全般においては、復興期は必要な施設や機材を整備したり、指導員のやる気を引き出したり、運営スタッフの能力強化をしたりすることが特に重要である。また、開発期には訓練機関が自立するための収入創出活動の導入と指導員の質の向上が大切であることが指摘できる。

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