日本地理学会発表要旨集
2010年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 312
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バングラデシュにおける家畜市と豚
*池谷 和信
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キーワード: 家畜市, , 流通, 遊牧, マンディ
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抄録

1 はじめに
 現代の発展途上国において、定期市は地域経済の担い手として、人々の楽しみの場として、単なる経済的意義以上の重要な役割を果たしてきた。なかでも南アジアは、市の分布と特性、定期市商人の販売行動などから市の全体像が把握されており、一定の研究蓄積が認められる地域である(石原・溝口編2006)。しかし、定期市のなかで家畜市を対象にしたものは多くない。本報告では、バングラデシュ北部で行われている豚市をめぐる現地調査から、豚市の分布、豚の売買の実際、豚の流通過程を明らかにすることをねらいとする。なお、市で取引される豚に関しては、パプアニューギニアでの研究がみられる。
 一方、報告者は、これまでバングラデシュにおける豚の遊牧と餌資源とのかかわり方や、遊牧豚をめぐる管理技術など、主に生産面に関する研究を行ってきた(Ikeya et al. 2010)。今回は、家畜市をめぐる豚の動きに注目することから、豚の流通面に関する新たな事実を提示する。両者を通して、人・豚関係の全体像が明らかになるであろう。

2 結果と考察
 2010年5月における2ヵ所の豚市での現地調査の結果、以下のような3点が明らかになった。
1)分布・立地:バングラデシュの豚市は、マイメンシンディストリクトなどインドのメガラヤ地域に隣接する地域において数ヵ所が見出された。このうち、A市は毎週日曜日、B市は毎週土曜日に行われていたが、他の市はクリスマスを中心とする冬季に開催時期が限定されていた。また、A市は幹線道路沿いで行われ、B市は幹線道路から離れているが家畜の皮が売買される市に近接して行われた。
2)豚の売買:2つの市は、午前7時ごろに始まり午後1時ごろに終了する。A市では4人の仲買人がそれぞれ別々の囲いに豚を入れて販売する。豚の総数は100~200頭を示す。B市では豚が1袋にそれぞれ2~3頭ずつ入れられ販売されるほかに、約50頭の豚が市から数十m離れて群れで置かれていた。豚の販売者はベンガル系ヒンドゥー教徒やキリスト教徒である一方で、A市での購入者は少数民族マンディ(ガロ)の人々が多かった。彼らは、自転車やオートバイなどで市にアクセスして、自宅で子豚を肥育してから結婚式などの儀式の際に豚を消費する(例:2009年1月の結婚式、16頭の豚利用)。
3)豚の流通:報告者は、これまで豚の生産者が市場を介在せずに消費地ダッカに豚を運ぶ過程についてある程度の輪郭を把握していたが、今回は市をめぐる小規模流通が存在することがわかった。B市で取引された豚が、翌日、A市で売買され、A市で売れ残った豚は、市以外にも仲買人によって個人に販売されている。また、都市のなかには市で購入した豚を肥育して新たなビジネスを行う人々もいる。さらに、これらの市に供給される豚の大部分は、各地で遊牧している豚である。
 以上のようにバングラデシュの豚市は、豚の地域流通のために不可欠であると同時に、遊牧で生産された豚が少数民族の間に流通するための中間的な役割を担っている。報告では、定期市の介在の有無によって2つのタイプの豚の流通がみられるが、2つに分かれた要因について考察する。

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© 2010 公益社団法人 日本地理学会
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