日本地理学会発表要旨集
2010年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 520
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詳細DEM画像から探る南海トラフの海底地形
*中田 高後藤 秀昭渡辺 満久鈴木 康弘隈元 崇徳山 英一佐竹 健治加藤 幸弘西澤 あずさ泉 紀明伊藤 弘志渡邊 奈保子植木 俊明梶 琢
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抄録

 発表者らは,近い将来大地震が発生すると予測されている南海トラフ沿いの活断層の分布とその特徴を明らかにするために,変動地形学的研究を行っている.このために, 1986年以降に相模トラフから南海トラフいたる海域で,海上保安庁所有の測量船に搭載されたマルチナロービーム音響測深器によって取得された測深データをもとに作成した3秒(約90m)グリッドDEM(以下3秒DEM)をもとに,これまでにない詳細な海底地形画像を作成した.これらの画像は,これまでの250mグリッドDEMを用いた画像と比較して地形解像度に10倍程度の差が認められ,トラフ全域にわたる地形を詳細に把握することが可能となった.本発表では,新たに明らかになった南海トラフ沿いの地形とその特徴について概要を述べる.

詳細DEM画像の作成
 海底地形の判読は,複数の画像処理ソフトを利用して海底画像の立体視用画像(ステレオペア画像やアナグリフ画像)を作成し,これを空中写真と同じように判読し効率的に地形解析を行った.具体的には, Macintosh用DEM解析ソフトSimple DEM Viewer®を用い,光源を2つの対称点(たとえば北西と南東)に置いたステレオペア画像をそれぞれ作成した後に,画像処理ソフトPhotoshop®で重ね合わせた.これによって,斜面の両側に影を付した地形が際立つ立体視用画像を作成した.また, Windows用DEM解析ソフトGlobal Mapper®を用いて地形断面図や3D画像を作成し,地形判読の資料として活用した.

深海底のイメージを変える新知見
 このようにして明らかにされた地形は,これまでの深海底のイメーのジを変えるものであった.すなわち,深さ2000mを超える海底では,混濁流が流下する海底谷や斜面崩壊が発生する陸棚斜面やトラフ陸側斜面など急傾斜を除いては,一般に堆積作業が卓越すると考えられているが,南海トラフに沿った海底では,深海平坦面を除けば,面的な浸食作用によって形成されと考えられる地形が広域的に認められることが明らかになった.
 逆断層の上盤側では広い範囲で背斜状の高まりが浸食され,硬軟の地層が背斜構造を反映する組織地形を形成していることが読み取れる.海底谷が背斜構造を深く浸食する場所では,谷底を横切って小規模なケスタ状の地形が発達するのが認められる.また,分岐断層が形成した比高約500mの断層崖には大規模な崩壊が認められる.
 断層運動などに伴って形成された撓曲崖などの緩やかな斜面では,馬蹄形をした滑落崖を伴う地すべりが認められる.傾斜が1度にも満たない未固結堆積物に覆われた緩やかな斜面でも大小の地すべり地形が認められ,広い範囲で面的な浸食作用が進行している.
 これらの浸食地形の成因として,巨大地震に伴う強震動によって急崖の大規模な崩壊や未固結堆積物の側方流動による地すべりが発生するとともに,断層変位によって傾斜の増した上盤側の隆起部では激しいゆれによって未固結堆積物が「灰神楽」状に巻き上げられ,硬軟の地層に差別的な浸食が起こったと考えられる.このような差別浸食地形は,南海トラフ陸側斜面で分岐断層上盤側の相対的隆起部に広く認められ,「成長する組織地形」と考えることができる.
 活断層については,これまで認定されてきた断層の連続性や活動度などについて,より詳細な検討が可能となった.また,これまで知られていなかった長大な横ずれ断層の発見など数多くの新知見を得た.既に報告のある海底火山,泥火山についてもさらに詳細な分布などを明らかにした.これらについては,別途報告する予定である.

残された課題
 詳細海底地形画像によって,これまではあまり問題とされなかった数多くの閉塞凹地が発見された.その中には変動地形とは考え難いものが少なくなく,狭長で10km以上連続するものがあり浸食起源と考えられるが,その成因についてはさらに検討する必要がある.
本発表は,海上保安庁と広島大学などが共同で行っている平成19-22年度科学研究費補助金(基盤研究(B)((研究代表者:中田 高)の成果の一部である.

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© 2010 公益社団法人 日本地理学会
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