日本地理学会発表要旨集
2010年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 107
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まちづくり3法施行による市町村間における大型店出店調整の変化
徳島県板野郡北島町におけるショッピングセンターの出店過程を事例として
*駒木 伸比古
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抄録

1.はじめに
 2000年のまちづくり3法の施行により,大型店の出店調整は,中小小売業者の事業機会確保ではなく,店舗周辺の生活環境保持という観点から行われることになった。そして,大型店の立地規制や誘導は,都市計画法に基づくゾーニング的手法により行われることが期待されていた。しかし実際には,市町村による大型店誘致がみられるようになり,その結果,大型店の郊外化・大型化が進行した。この際に問題とされたのは,市町村を超えた広域スケールでの出店調整システムの整備が不十分なことであった。そのため,まちづくり3法の改正においては,広域調整に関する制度が導入されている。
 本発表で取り上げるSCは,まちづくり3法の施行を前後して,出店届出が大店法および大店立地法に基づきそれぞれ行われた。そして徳島市と北島町との間で,出店調整にかかわる関係の変化がみられた。本発表では,SCの出店に関わる自治体,中小小売業者,大規模小売業者の行動を通じて,まちづくり3法の施行により,市町村間における大型店の出店調整がどのように変化したかを考察する。

2.北島町における大型店誘致と出店過程
 1990年代後半,北島町では町内の工場社宅跡地をどのように利用するかが問題となった。北島町は,一部を商業・アミューズメント施設として利用することに決定し,地区計画の策定および用途地域の変更を行った。そして1998年2月に「北島サティ」の出店が発表され,マイカルにより大店法に基づく新規出店届出が行われた。総店舗面積は23,206m2であり,複合映画館などのアミューズメント施設の併設を予定していた。これに対し,中心市街地からの買物客流出を懸念した徳島商工会議所は,大規模小売店舗審議会(以下,大店審)四国審議部会に対して店舗面積の削減を要望した。大店審四国審議部会は,1999年4月に店舗面積の削減(22.4%)を勧告した。この調整結果に対し,マイカルは出店計画の凍結・延期を表明した。
 工場社宅跡地の早期利用を希望していた北島町は,マイカルによる出店を断念し,他の小売業者と出店交渉を行った。その際に出店を表明したのが,本社を愛媛県に置くフジである。2000年12月に,大店立地法に基づく「フジグラン北島」の新規出店の届出が行われた。店舗面積は18,800m2であり,前回同様に複合映画館などの併設が予定されていた。地元からの意見聴取の際に,徳島商工会議所は廃棄物の減量化やリサイクルの推進,駐車場の確保といった環境対策に関する意見書を提出した。しかし,徳島県大規模小売店舗立地審議会の協議を経て,2001年8月に出店申請は計画通り認可された。そして,2001年12月に県内初の映画館併設型SCとして開業し,現在に至っている。

3.市町村間における出店調整をめぐる状況の変化
 本発表を通じて,まちづくり3法の施行により,市町村間における大型店出店調整が困難になったことを指摘したい。1990年代には大店法の運用が緩和されたが,大型店の出店調整は大店審により行われていた。そして中小小売業者は,他市町村への大型店出店に対しても,店舗面積削減などの要請が可能であった。しかし,まちづくり3法の施行に伴い,中小小売業者は出店調整手段を失うと同時に,都道府県または政令指定都市が調整機関となった。都市計画法では,他市町村への大型店立地を規制することはできない。また,条例などにより広域調整を行っている都道府県や政令指定都市は,一部に過ぎない。
 こうした状況において,2007年11月に行われた改正都市計画法の施行により,延床面積が10,000m2を超える大規模集客施設の郊外立地が制限され,広域調整の制度が導入された。しかし,その運用は各都道府県・政令指定都市に任されており,郊外立地の抑制効果を期待するのは難しいのではなかろうか。
 例えば事例地域である徳島県では,改正まちづくり3法の成立・施行後も,SCの郊外立地が続いている。2006年には,徳島市西部に隣接する石井町に,「フジグラン石井」が立地した。立地場所は市街化調整地域に指定されていた農地であり,石井町が地区計画を策定して誘致したものである。さらに2008年にはイオンによる徳島市北部の市街化調整地域(14ha)への出店計画が,2009年にはイズミによる藍住町のバイパス道路沿い(8.5ha)への出店計画(営業予定面積:約40,000m2)が報道された。藍住町は全域が白地地域であるため,商業区域などを定めた地区計画および都市計画マスタープランの策定が進められている。徳島県は大型店立地規制に関する条例・ガイドラインの制定を検討しているが,具体的な動きはみられない。このように,まちづくり3法の施行後,市町村間における大型店出店調整は,容易でない状況にあるといえる。

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