抄録
1.研究目的
改革・開放が実施されてから、開発下の都市周辺部は世界中から注目を集めるようになった。そこでは工業団地やニュータウンをはじめとする大規模な開発が進められ、土地利用や景観、社会構造、生活様式が激変している。都市周辺部には内陸農村からの出稼ぎ労働者、いわゆる農民工が殺到している。
農民工の「向都」移動によって地面に投影された結果は、「都市縁辺部」の形成である。ここに言う都市縁辺部は、農民工が一つの社会階層を構成したものの、市民が円盤の中心にいるとするなら最も外縁にいる人々であることを意味する。もう一つは、郊外に限定され、実在する農民工を中心とする生活空間を指す。例えば、農民工の多くは市民から敬遠される3Kやインフォーマルセクターと総称される職業に従事し、郊外の簡易宿舎と農家が貸し出す貸家にインフォーマルな形で居住している。すなわち、都市縁辺部という言葉ほど、農民工の社会階層的位置づけ(縁辺の人)、暮らしを営む生活空間(アーバンフリンジ)を的確に表現できる言葉がなかろう。
本発表は、第3空間という地域概念を提起することにより、従来の二元的な研究の枠組みでは捉えられない、かつ解きにくい課題に新たな視角を提供しようと試みる。また、第3空間の具体的な地域的表現の把握とそのメカニズムの解明に当たっての基本視点について述べる。
2.研究視点
従来の研究では、農民工について労働力や生産者という視点から、その量、属性に着目した考察が中心である。発表者は住居という、農民工の行動・定着過程の軌跡および経済的、社会的地位の変化を映し出す「鏡」に着目し、生活者としての農民工、その暮らし、その家族状況に焦点を正面から当て、「居処の定まらぬ者」から定住者へ変わっていく過程、そのパターンの解明、並びに定着に影響する要因の分析を行う。その際、地付き農民と農民工の双方による利用と所有状況の変化を結びつけながら、その過程で見られた動態的な対応関係(経済や社会地位)に注目する。
3.今後の課題
将来に向けての第3空間における自立生活圏の設定とそのための制度支援について提言することも重要である。その際、第3空間における農民工の主人公、主権者としての社会地位の確立、「特区」としての指定が何よりも急ぐべきである。