抄録
本研究は、2011年の梅雨期の愛媛県地方において顕著な降水が生じた事例について、降水の空間的分布とその成因を把握し、これを基に大雨がもたらされる気象学的条件を明らかにすることを目的とする。
?@. 5月29日の事例 多降水域は東予東部で、富郷と四国中央では日雨量が200mmを超えている。東予東部における強い降水は早朝から昼過ぎにかけて続いている。高知・福山間の地上相当温位傾度は正午に最大となり、この時間に四国西部において前線の存在が明瞭になっている。四国中央と新居浜においては降水量は地上風の西風成分・南風成分双方との間に負の相関関係がある。
?A. 6月12日の事例 最多日降水量観測地点は大洲で100mmを超えている。南予北部の多降水域は、降水量と西風成分との間の正の相関関係が高い領域とほぼ一致している。この二者の関係は中予平野部の松山においても認められる。松山および西条、新居浜では、南風成分との間の負の相関関係が強い。南予地方における顕著な降水の始まりと見られる10時の四国とその周辺における地上相当温 位を見ると、前線傾度は日向灘で大きくなっており、南予地方では緩やかである。
?B. 6月16日の事例 多降水域は南予北部から中予内陸山間部にかけての地域で、東西方向に帯状に形成されている。降水量と地上風との関係に着目すると、南予北部の多降水域では南風成分との間の負の相関関係が強くなっている。また、伊予灘沿岸の長浜、瀬戸では西風成分との間の負相関が強い。
?C. 6月20日の事例 最多降水量観測地点は南予南部の宇和島で140mmを超えており、7時までの1時間に74.5mmを観測している。この短時間強雨は西風成分の急激な増加と気圧の上昇がほぼ同時に発生することによってもたらされている。多降水域では降水量と南風成分との間に負の相関関係が認められる。
?D. 7月4日の事例 最多降水量観測地点は松山で100mmを超えている。松山での短時間強雨は西風成分の増加、気圧の上昇、気温の低下がほぼ一致して出現することによって生じている。降水のピークである21時の地上相当温位の分布状況に着目すると、宮崎県沿岸部と高知県中部に暖湿気塊が流入している一方、松山周辺は低相当温位域となっている。
事例解析より見出される大雨発生時の特徴 分析結果に過去の事例を併せると、愛媛県地方の梅雨期の降水は寒冷前線の作用によるものが卓越していることが特徴として挙げられる。