日本地理学会発表要旨集
2011年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 302
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小規模市町村における介護保険地域密着型サービスの運用
新潟県関川村と和歌山県由良町の事例から
*畠山 輝雄
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抄録

1.はじめに
 2006年4月の介護保険制度改正に伴い,住み慣れた地域での高齢者の生活を支えるために新設された地域密着型サービスは,これまで都道府県にあった事業者の指定権限が市町村に移譲された結果,市町村の考えのもとにサービス展開が可能となったことで注目されている.しかし,従来の介護保険サービスに比べて地域差が大きく,特に人口1万人未満の小規模市町村において事業者の参入がみられずに,サービスが提供されないことが問題となっている.この要因は,地域人口の規模が小さく,そのうえ地域密着型サービスの介護報酬が低いことから,事業の採算確保が困難であるゆえに事業者の参入が消極的になったこと,またその場合に財政的問題から市町村独自に事業所を整備できなかったことがあげられる.
 そこで本発表では,小規模市町村における地域密着型サービスの特徴を把握した上で事例市町村を選定し,市町村での地域密着型サービスの運用の取り組みを考察することで,今後の地域密着型サービスの運用のあり方を明らかにする.なお,本発表における小規模市町村とは人口1万人未満の市町村を指す.
2.小規模市町村におけるサービスの実態と事例市町村の選定
 地域密着型サービスには,小規模多機能型居宅介護(以下,小規模多機能),認知症対応型共同生活介護(以下,GH),認知症対応型通所介護(以下,認知症デイ),夜間対応型訪問介護,地域密着型特定施設入居者生活介護,地域密着型介護老人福祉施設(以下,小規模特養)の6サービスが設定されているが,小規模市町村においては,いずれのサービスにおいても大・中規模市町村に比べてサービス未設置の市町村がきわめて多い.また,全6サービスを未設置の市町村も40.4%みられた.
 このような中で,小規模市町村にもかかわらず,多くの地域密着型サービスが設置されている新潟県関川村と,市町村内に地域密着型サービスが設置されていないことから周辺の市町村との共同指定により広域的なサービスが設置された和歌山県由良町を事例に,サービスの実態を明らかにする.
3.新潟県関川村における地域密着型サービスの運用
 関川村は,人口6,856人(09年住基台帳),財政力指数0.27(2008年度)の小規模村である.しかし,関川村にはGHと小規模多機能が1事業所,認知症デイが2事業所立地している.
 村では,人口高齢化および単身世帯の増加から,小規模多機能型の必要性を感じ,村主導で公募をした結果,新潟県内(村外)の株式会社2社から応募があった.その結果,もともと建設会社であったA社が参入することとなった.しかし,A社は社長が村に縁があったという理由で参入しており,人口等のマーケティングリサーチを実施して参入したわけではない.また,村社会福祉協議会が認知症デイの必要性を感じ,以前より運営していた住民運動によって開設された通所介護に併設させる形で,認知症デイを2事業所開設した.GHは,新潟市に本体があり新潟県内に強い地盤を持つ社会福祉法人が法人の地域福祉戦略の中で参入した.
4.和歌山県由良町における広域的なサービスの運用
 由良町は,人口7,102人(同上),財政力指数0.43(同上)の小規模町である.同町では,利用ニーズの少なさ,介護保険料負担の増大,事業者参入の困難さから,第3期介護保険事業計画において,地域密着型サービスの整備目標を立てておらず,実際に事業所も立地していない.
 しかし,実際にはサービスの必要性を感じており,周辺の町から許可を得て事業所の指定することにより,周辺の町のサービスの利用を可能にした.現在は,3町6事業所(GH,認知症デイ,小規模特養,小規模多機能)の利用が可能である.参入事業者についても,1町からの指定では利用者が集まらず採算確保が困難であることから,複数市町村での指定を希望していた.
5.おわりに
 地域密着型サービスの参入が困難である小規模市町村において,関川村の事例からみると,行政の意向と努力も多くのサービスが存在する要因にはなっているが,事業者参入については偶然性も高い要素となっている.このため,他の小規模市町村では同様の参入は見込めないといえる.むしろ,由良町の事例でみられたような,周辺市町村との共同指定により広域的なサービスが建設的である.しかし,そうであるならば,サービス創設時の「地域密着型」の理念は,小規模市町村には合致しないものと考えられる.

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