日本地理学会発表要旨集
2012年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: S0103
会議情報

発表要旨
丘陵地等の造成地における東日本大震災による被害とハザードマップ
*村山 良之
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

2011東日本大震災による丘陵地等における被害  表者らによる現地調査結果によると,丘陵地等の地形改変地における被害の特徴は以下のとおりである。  ①過去の事例と同様に,切土部で被害が小さい/少ないのに対して,盛土部や切盛境界部で被害が大きい/多い。②盛土部の沈下や移動,切盛境界部での不同沈下によって,住宅がひどく被災した事例が認められる。1970年頃以前の古い造成の住宅地に多い傾向が明瞭である。③開発の古い造成地間にも被災程度の差が認められる。地形改変の度合いが小さい造成地の方が,被災程度がひどい傾向が認められる。一方で,厚い谷埋め盛土末端部で,盛土の法面が変形・せり出す等の被災をした場所もある。④切盛境界部等で,1978年と2011年の両年とも被災した場所が数多く認められる。しかも,2011年の方が地盤変状の程度がひどく,住宅等の被害も大きいものが多い。また2011年には複数箇所で認められた谷埋め盛土の明らかな地すべり的変動は,1978年にはほとんど認められなかった。2011年と1978年の全体的傾向を比較すると,明らかに2011年の方が被災宅地・住宅が多い。⑤新しいRC造の擁壁は,ブロック積みや練玉石積み擁壁に比べて被害が少ない。⑥1978年には,地盤変状によって住宅の基礎が破壊された事例が多かったが,新しい住宅は,とくに基礎が堅牢になったため,ある程度の地盤変状が生じても構造的被害を免れた事例が多い。ただし地盤変状が大きい場合は住宅全体が傾斜する等の被害は免れない。  仙台市宅地保全審議会(同技術専門委員会)による被災宅地に関する詳細な調査の結果,被害形態・地盤変状メカニズムに関する知見が得られ,盛土部のきわめて小さいN値や盛土内の地下水が被災に強く関与すること等が明らかになっている。   仙台市における被災宅地の復旧支援  仙台市は,2011年11月「仙台市震災復興計画」を策定し,同市宅地保全審議会は「丘陵地等における宅地復旧の支援方策」を提示した。その骨子は以下のとおりである。対象は,被災宅地危険度判定等に基づく危険宅地・要注意宅地4,031宅地に関わる個別擁壁等までで,住宅自体はこの対象外である。 ・公共事業(国庫補助事業)による宅地復旧 (4,031被災宅地の約8割が該当) 造成宅地滑動崩落緊急対策事業 災害関連地域防災がけ崩れ事業 公共事業に係る所有者負担制度創設(個別擁壁等工事費の1割を宅地所有者負担) →条例化へ ・仙台独自の支援制度(上記対象外の約2割が該当) 擁壁復旧及び地盤対策への助成(100万円を超える部分の90%を助成,それ以外は所有者負担)  これにより,仙台市は,被災団地ごとに住民への説明会を実施している(2012年1月現在)。移転案が提示された団地もある。被災宅地所有者に対して手厚い内容と考えられるが,被災者の個人負担は,割合は低いが絶対額はけして小さくはない。被災住民からは不満の声もある(河北新報2012年1月10日)。  宅地造成等規制法(2006年改正)では,造成宅地の防災のために,被災前の対策として下記が規定されていた。   盛土分布図作成 → 2段階スクリーニング →   「造成宅地防災区域」設定 → 対策工(補助+所有者負担) しかし,仙台市では事前の 「造成宅地防災区域」 設定および対策工事は行われず,被災後に上記の支援を行うことになった。   防災とハザードマップ・ハザード情報:大震災をふまえて ・対策工への期待  軽度の地盤災害に対しては,建物の基礎・構造の堅牢度向上により被害軽減が可能であることがわかった。一方,重度災害についても,事例積み重ねによる対策工法の進歩が期待できる。 ・丘陵地等における地震災害の予測精度向上の可能性  「造成宅地防災区域」指定および事前対策工は,技術的により適切に可能となろう。また,より適切なハザード情報提供とリスクコミュニケーションの進展が期待される。 ・事前対策へのインセンティブ?  所有者負担はあるものの被災後の手厚い支援の実績は,事前対策推進にとってポジティブとはいえない面もあると考えられる。宅地造成等規制法の手法見直しが求められよう。

著者関連情報
© 2012 公益社団法人 日本地理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top