日本地理学会発表要旨集
2012年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 515
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発表要旨
ザンビアにおける中小都市の発達プロセスと近郊農村への影響
*伊藤 千尋
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抄録

ザンビアの都市化は植民地期における国内銅鉱山の発見に端を発し、独立以降も都市への人口流入が進展してきた。しかしながら、1990年代の構造調整計画導入以降、大都市の失業率の増加や正規雇用部門の大幅な削減が引き起こされ、これまで優位性を保ってきた都市部門に変化が起こってきた。同時に、大都市から農村部への人口流出等が報告されはじめ、都市-農村関係は新たな展開に直面している。
本発表では、ザンビア南部州の中小都市における地域経済の変容や、近郊農村との関わりの変化を明らかにすることで、1990年代以降の都市-農村間関係の変容の一端を提示する。
調査地は、ザンビア南部州シアボンガ県である。本発表では、中小都市の事例として県行政の中心であるシアボンガを取り上げる。主産業である漁業と観光業について事業主への聞き取り調査を行ったほか、関係省庁での資料収集も行った。 また、中小都市の発展が近郊農村に与える影響について考察するため、シアボンガ県ルシト地域で行った出稼ぎ労働に関する調査結果を使用する。
シアボンガにおける漁業は、1980年代に白人入植者らの参入によって盛んになり、現在でも最も多くの人口を雇用する産業である。現在でも多くの漁船を所有するのは白人経営の企業であるが、2000年以降、ザンビア人が経営する零細的な企業が増加していることが明らかになった。また観光業においても同様に、1980年代から継続してきたホテルやゲストハウスは白人によって経営される大規模なものであるが、2000年以降、ザンビア人経営の小規模なゲストハウスが増加していた。 このザンビア人起業家の増加には、フォーマルセクターでの実質賃金が低下し、副業を営む人びとが増加してきたことや、退職後に出身村に戻らず、町で生活を続けていくため、新たな収入源として事業を始める人びとの生計戦略が関連していた。また、1990年代の地方分権化の流れを受けて独立した県となったシアボンガでは、公務員や民間企業で働く人びとが増加し、ハウスワーカー等の低熟練労働に対する需要が増加していた。
このような変化は、近郊に位置する調査村からの出稼ぎ労働者を増加させていた。特に町の労働市場の多様化が進んできた近年では、人びとは短期間の移動を頻繁に行うようになり、出稼ぎは干ばつ時の生計維持や日常の現金稼得手段として重要であることが明らかになった。

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