日本地理学会発表要旨集
2013年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 609
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発表要旨
熱帯の先住民社会における海洋資源の利用と管理に関する研究動向
カリブ海を中心として
*高木 仁
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抄録
1.はじめに
これまで文化地理学の分野における熱帯の海洋資源に関して主に南太平洋西部や東南アジア、東アジアが主な研究対象として進められてきた。例えばオーストラリア・トレス海峡域の先住民によるジュゴンの利用を巡る対立など複数の詳細な事例を用い、各諸地域の熱帯の沿岸水域における環境保全に関して議論がなされてきた(松本編 2011)。また日本各地やマレー半島、パプワ・ニューギニアの沿岸域で暮らす人々の海洋資源の利用に関して漁場という空間利用から多くの研究が蓄積され議論がされてきた(田和 1997)。カリブ海に関してはカリブの先住民や奴隷の歴史、農民の暮らしに焦点を当てた地域研究(石塚編 1991)がある一方、海洋資源の利用と管理に関しては既存の地域研究の蓄積と比べると少ないのが現状であり、近年になってこの地域の海洋資源の利用と管理に関して注目が集まってきた(例えば池口 2012)。
2.結果
諸外国、特に欧米においては中米・カリブ域における熱帯の海洋資源の利用と管理の研究蓄積は多数ある。なかでも報告者の研究対象としている中央アメリカのカリブ海岸沿岸(図1)で特に著名なのはベルナルド・ニーチマン(Bernard Nietschsman)によるニカラグア東部海岸域での研究である。このニカラグア東部海域に位置するミスキート諸島にはカリブ海でも最大の珊瑚礁が広がり、ニーチマンはそれぞれ70年代には自給的な生計を基盤とした先住民族の暮らしや80年代の先住民族と国家の対立を先住民の視点から詳細に描いた。また90年代には漁場であるミスキート諸島の認知地図とその保全に関する研究を進めてきた(例,Nietschmann 1973, 1980)。
3.考察
こうした研究動向を受け、筆者はニーチマンの遺産である70年代の民族誌や90年代の先住民の漁師たちによる認知地図を鍵として、ニカラグア東部カリブ海沿岸域を研究対象として熱帯の先住民族社会における海洋資源の利用と管理に関する研究を進めている。これまでは特に北東部沿岸域のミスキート村落での海がめ漁(網漁)に焦点を絞り、その実態や日周での活動パターンに関して研究をおこなってきた(高木 2012)。本発表ではこうした熱帯の海洋資源の利用と管理に関するオセアニアや東南アジア、南西諸島やカリブ海の近年の研究動向を追い、本研究テーマにおけるカリブ海地域研究の持つ可能性と課題を議論する。
【参考文献】
石塚道子編 1991 『カリブ海世界』世界思想社。
池口明子 2012 「カリブ海・サンアンドレス諸島の漁民の環境史」民博『熱帯の「狩猟採集民」に関する環境史的研究会』(口頭)。
高木仁 2012「カリブ海沿岸での先住民によるウミガメ捕獲-ニカラグアにおけるミスキートの網漁の事例」『ビオストーリー』18:pp93-99。
田和 正孝 1997 『漁場利用の生態』九州大学出版会。
松本博之編 2011 『海洋環境保全の人類学 沿岸水域利用と国際社会』国立民族学博物館調査報告 97。
Nietschsman, Bernard. 1973 Between land and water: The subsistence  Ecology of the Miskito Indians, Eastern Nicaragua. Sminar Press.
Nietschsman, Bernard. 1980 The Unknown War: The Miskito Nation, Nicaragua, and United States. University Press of America.
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© 2013 公益社団法人 日本地理学会
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