日本地理学会発表要旨集
2013年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 614
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発表要旨
季節凍土上の半乾燥草原における陸面過程モデルによる水文過程の再現性
*宮崎 真萬 和明浅沼 順近藤 雅征斉藤 和之
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抄録
1.  はじめに
気候変動予測に用いられる地球システムモデル(ESM)において、陸面での熱・水・物質の交換を含む水文気象過程を計算するためのモジュールが陸面過程モデル(LSM; Land surface process model)である。LSMの性能向上はESMの予測精度向上において重要な要素の一つである。季節凍土上の半乾燥域草原におけるLSMによる水文過程の再現性についての研究は少ない。本研究は季節凍土上の半乾燥草原における土壌水分、蒸発散量等の水文過程において重要な要素についてLSMによる再現性を明らかにして、算出精度向上に必要な知見を得る事を目的とする。

2.  使用したモデルとデータ
 使用したLSMはESMのMIROC5(Watanabe et al., 2010, JC)に組み込まれているMATSIRO(Takata et al., 2003, GPC)である。このモデルは、地表面付近の大気の熱・運動量・水の輸送、植物群落内の放射過程と植生による降水の遮断と蒸発、光合成過程、簡易型トップモデルによる水文流出過程、積雪(最大3層)・凍土(土壌水の相変化)の過程、土壌中の熱・水輸送過程(最大6-12層)が組み込まれている。
本研究では陸面過程モデルにADMIP(アジア乾燥地における陸面モデル相互比較プロジェクト)による水文気象観測データを入力した。実験を行った場所は中国の半乾燥草原ではCEOP(地球エネルギー・水循環統合観測プロジェクト)によって行われた中国東北部のTongyu(北緯44.416°, 東経122.867°、標高:184m)ならびにRAISE(北東アジア植生変遷域の水循環と生物・大気圏の相互作用の解明)によるモンゴル東部の草原Kherlen Bayan Ulaan(KBU:北緯47.2127°, 東経108.7424°、標高:1235 m)である。データの期間はTongyuでは1981年1月から2005年12月、KBUは1981年1月から2009年11月である。その際、土壌の水理特性パラメータについて、グローバルなデータセットで用いられているパラメータを用いた実験(CTLラン)と現地観測を基にしたパラメータを用いた実験(OBSラン)の2つの実験を行った。葉面積指数は、Terra/MODISにより算出され、現地の観測値により補正した2003年から2011年までのLAIの平均値を用いた。LSMの検証用データとしては、TongyuおよびKBUおける地温・土壌水分・地表面熱収支のそれぞれ2002年10月~2004年12月および2002年11月~2007年4月)のデータを用いた。

3.  結果
 OBSランの方がCTLランに比べて全ての要素において再現性が向上した。両ランともに地温、正味放射量(Rn)と潜熱フラックス(LE)のモデルによる観測値の再現性は高かった。しかし、土壌水分量(SWC)については、再現性が悪く、特に冬季の凍結時については、モデルの方が観測に比べてかなり高い値を示していた。これについては、モデルの性能だけでなく、観測ではSWCについて液体水分量のみ測定可能でモデルには含まれる凍結水分量を計測できないという観測方法の問題とも関連があると考えられる。
現地は季節凍土域に属しており、土壌の凍結融解が水文過程の再現性に大きな影響を及ぼすと考えられる。土壌が凍結した際に凍結した氷は液体水より大きな熱伝導率と小さな熱容量をもつので、そこを考慮したMATSIROに凍土過程を組み込んだモデル(Saito, 2008, JGR)による実験を行ったところ、表層土壌水分の再現性は向上したが、冬季の凍結時にモデルの方が高い値を示す傾向は変わらなかった。今後、土壌パラメータの最適化等を行い、再現性向上に必要な要素についてさらに検討する必要がある。
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© 2013 公益社団法人 日本地理学会
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