抄録
MoranのI統計量とそのローカル法は、地区データの空間自己相関を検定する手法として、最も広く用いられているものの一つである。I統計量による検定は通常、対象地域内の地区数、n、が十分に大きく、解析対象とする変数、X、が特定の仮定を満たす場合、漸近的に正規分布に従うというI統計量の確率分布の特性に基づいて行われる。Iの正規性がしばしば、特に分布の裾野において成立しないことは指摘されているものの、その解決方法はモンテカルロ・シミュレーションや、解析対象変数Xに制約のある複雑な数値計算に限られている。また、I統計量の実データへの適用において、Xに関する仮定の妥当性が十分に検討されている例は稀である。そこで本研究では、解析対象変数Xの分布形がI統計量の確率分布に及ぼす影響をシミュレーションにより検証すると共に、特にXが離散変数である場合について、新たな検定手法を提案する。