日本地理学会発表要旨集
2013年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 410
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発表要旨
東京23区における平均世帯規模の縮小と世帯構成の変化
―1965年~2010年―
*桐村 喬
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抄録
I 背景と目的
 2010年の国勢調査結果によれば,単身世帯が夫婦と子供から成る世帯を超えた.一般的に「標準家庭」とされ,代表的な世帯像と考えられてきた夫婦と未婚の子から成る核家族世帯は標準的な世帯ではなくなりつつある.家族社会学的な知見によれば,グローバル経済のもとでの男性だけでなく女性も含めた収入の低下が,戦後長らく続いてきた「戦後家族モデル」の解体をもたらしたとされ(山田2005),近年の単身世帯の増加などの世帯構成の変化は,そうした家族を形成できなくなったことの現れといえよう.
 このような世帯構成の変化は,単身世帯が多く,かつ顕著に増加してきた大都市圏では(藤森2010),数十年スパンの長期的な現象であると考えられる.桐村(2011)が長期的な小地域統計のデータベース構築の成果として示した,東京23区における平均世帯規模の縮小も,単身世帯の増加などの世帯構成の変化がもたらした結果であろう.桐村(2011)は,その縮小が1960年代以降に顕著であり,東西のセクター的な差異を伴うものであったことを示している.若林ほか(2002)が示したような近年の女性の単身世帯の増加も,平均世帯規模の縮小に寄与すると考えられるが,一方で縮小過程の東西のセクター的な差異は,ホワイトカラーとブルーカラーによる伝統的な居住分化との関連も想起させるものであり,様々な要因が複合的に作用しているものと思われる.しかし,桐村(2011)による分析は,人口総数を世帯総数で割った平均世帯規模の検討に留まっており,単身世帯や核家族世帯などから成る世帯構成の変化は十分に考慮されていない.従って,平均世帯規模の縮小過程の地理的背景を詳細に明らかにするには,まず,どのような世帯が増え,減ってきたのかを把握しておく必要がある.
 そこで本発表では,東京23区における1960年代以降の平均世帯規模の縮小過程に注目し,世帯構成の変化に関するその基本的な特徴を明らかにする.分析の期首年次は,詳細な小地域統計が入手可能である点を考慮して1965年とし,直近の国勢調査が実施された2010年を期末とする.分析にあたっては,東京都が独自に集計した町丁別の国勢調査結果および国勢調査町丁・字等別集計を中心に利用する.
II 分析結果
 単身世帯の割合は,東京23区の西部で高く,特に山手線の西半分の沿線と,中央線沿線で顕著である.この相対的な傾向には,割合の上昇の過程および現在でも大きな変化はない.1975年になると,単身世帯が普通世帯全体の50%を超える町丁がみられるようになり,これ以降,鉄道駅の周辺から順に,相対的に単身世帯の多かった地域で普通(一般)世帯全体の50%を超えるようになっていった.1990年には山手線の内側の地域を中心に,一時的に単身世帯の割合が低下するものの,1995年以降,再び割合は上昇し,山手線の内側の地域を含めて,隅田川以西の大半で単身世帯が50%以上を占めるようになった.
 このような単身世帯の増加に対して,核家族世帯は1975年ではほぼすべての町丁で普通世帯全体の50%以上を占めていたものの,単身世帯の多かった地域から順に,核家族世帯の割合は低下し始めた.1990年には,核家族世帯の割合は一時的に上昇する地域もあったものの,2000年ごろを境にして,港区や中央区などの都心部でも低下が目立ち始め,50%を切る地域が広がっている.
 このように,核家族世帯の減少と単身世帯の増加はほぼ対応しており,単身世帯中心の世帯構成への変化は,1970年代後半から1990年ごろにかけての時期に東京23区西部の山手線・中央線沿線で生じ,1990年以降は都心部でも単身世帯中心の世帯構成への変化が進んだ.一方で,東京23区の東部では,2010年で単身世帯が50%を超える町丁もみられるものの,依然として核家族世帯を中心とする世帯構成を維持している.ただし,核家族世帯の内訳をみれば,東京23区東部を含めた大半の地域において,核家族世帯に占める夫婦のみの世帯の割合が徐々に上昇してきており,核家族世帯についても規模の縮小が続いているものと思われる.
III まとめと今後の課題
 今回の分析では,単身世帯を中心とする世帯構成をもつ地域が,1970年代半ば以降に東京23区西部から広がり始め,1990年代以降は都心部を占めるようになったことが確認された.また,2010年でも依然として核家族世帯を中心とする世帯構成をもっている東京23区東部でも,夫婦のみの世帯の割合が高まっており,核家族世帯の世帯規模は縮小傾向にあることが示された.これらの結果は,平均世帯規模の縮小過程とある程度一致している.発表では,単身世帯,核家族世帯の実数の増減や,高齢単身世帯の動向など,より詳細な属性を検討の対象に広げ,議論を深めたい.
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© 2013 公益社団法人 日本地理学会
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