日本地理学会発表要旨集
2014年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 114
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発表要旨
東北地方太平洋沖地震による内陸部における液状化発生率
*青山 雅史
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抄録

1.はじめに
地盤の液状化は,埋立地や旧河道等の特定の微地形や,若齢地盤において生じやすいことが知られている.本研究では,Google Earth画像の判読と詳細な現地調査(目視観察)で得られた液状化被害のデータ(青山 2013,青山 印刷中)に基づいてGIS上で液状化発生域の面(ポリゴン)データを作成し,利根川下流低地と宮城県北部大崎平野における地形区分ごとの液状化発生率を求めた.また,多くの領域で埋立の経緯が判明している利根川下流域の旧河道・旧湖沼における液状化発生域とその埋立年代(地盤形成年代)との関係を検討した.
2.調査方法と使用したデータ
Google Earth画像の判読から液状化発生の指標となる噴砂を抽出し,Google Earth画像の判読では噴砂の抽出が困難な市街地に関しては現地調査から得られた青山ほか(印刷中)等の液状化被害のデータを用い,GIS上で液状化発生域のポリゴンデータを作成した.液状化発生域は,約30m四方以上の領域を取得した.マンホールの浮き上がりやアスファルト路面の線状沈下に関しては,マンホールや下水道管渠等の埋め戻し土のみに生じた局所的な液状化に起因すると推定され,GIS上で面データとしての取得が困難であるため,本研究の液状化発生域には含んでいない.旧河道・旧湖沼の埋立年代は,迅速測図,旧版地形図,米軍・国土地理院撮影の空中写真や文献資料等に基づいて判断した.
3.結果と考察
利根川下流低地における液状化発生域の面積は,旧河道・旧湖沼で最も大きく,それに次いで後背湿地,旧湿地,自然堤防の順であった.しかし,各地形区分の面積比率はばらつきが大きく,地形区分ごとの液状化発生率を求めると,旧河道・旧湖沼において液状化が生じやすいのに対し,他の地形よりも面積比率の大きい後背湿地ではむしろ液状化が生じにくかったことが示された(図1).液状化が集中的に生じた旧河道・旧湖沼の埋立年代ごとの液状化発生率をみると,戦後の食糧増産政策や宅地造成に伴い陸化された領域では45.8%であったのに対し,明治後期の利根川改修工事以前に陸域化されていた領域では1%未満であり,液状化の生じやすさには明瞭な差異がみられた(図2).大崎平野における地形区分ごとの液状化発生率は利根川下流低地と同様の傾向がみられたが,利根川下流低地に比べて旧川微高地を除くすべての地形で液状化発生率が小さかった(図1).大崎平野では利根川下流低地と比べて旧河道・旧湖沼の面積比率が小さく,さらにその中でも明治後期以降に陸域化された領域は少ない.しかし,JR古川駅周辺などの粘性土地盤(泥炭地盤)からなる地域では,マンホールの浮き上がりやアスファルト路面の沈下,建物周辺地盤の沈下(抜け上がり)など,GIS上で面データとして取得困難な局所的な(埋め戻し土の)液状化が多数生じていた.利根川下流低地では,明治後期の利根川改修工事以降陸域化された領域の多くは,利根川浚渫土を用いた埋立で陸域化された.それに対し,それ以前に陸域化された旧河道・旧湖沼や大崎平野の旧河道・旧湖沼に関しては,陸域化の経緯が不明である領域が多い.利根川下流低地における液状化発生率の高さは,本震の 分後に発生した最大余震の影響なども指摘されているが,それに加えて,液状化が生じやすい砂質土で埋積された地盤(旧河道・旧湖沼)が相対的に広く分布していることの影響も考えられる.以上のことから,液状化の生じやすさの面的分布を推定するうえで,河道変遷,旧河道・旧湖沼の陸域化の経緯(地形・地盤の形成史)やその埋立材料,埋立造成年代等に関する情報の取得は重要である.また,砂質土地盤では「面的」な液状化が生じやすいのに対し,泥炭地盤では埋め戻し土の液状化に起因する局所的被害(マンホールの浮き上がり等)が顕著な場合があり,地形区分(表層地盤)による液状化被害形態の差異についても考慮する必要がある.

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