1.はじめに<BR> 従来の観光農園に関する研究は、全国のいくつかの地域を事例として観光農園の経営形態や地域周辺の交通環境の変化がどのような影響を与えたかなどについて論じてきた。その中で個々の観光農園がどのように観光客を引きつけ、集客を行っているかについては、定性的な調査がなされており、ダイレクトメールの送付やリピーターを獲得することの重要性が言及されてきた。本研究では、定量的なデータをもとに多変量解析を行うことで、先行研究の検証をするとともに、情報技術の発展や経営の多角化が起きている現在の状況下における観光農園の集客要因を明らかにすることを目的とした。<BR><BR>2.調査地の概要および研究方法<BR> 調査対象である山梨県甲州市勝沼地域は甲府盆地の東部に位置し、東京都心から中央自動車道を利用して約1時間半、新宿駅から勝沼地域内にある勝沼ぶどう郷駅まではJR中央本線の特急を利用して約1時間半の距離にある。ぶどうの栽培が盛んな地域であり、地域内に100か所以上分布する観光農園が毎年多くの観光客を集めている。<BR> 集客要因を明らかにするために、勝沼地域内の観光ぶどう園の従業員に対面式アンケート調査を行った。アンケートの項目は観光客数のほか、農園の経営や観光客に対して行っているサービスなどについてであり、67か所の農園からデータを得られた。このデータをもとに、2012年に観光農園を訪れた観光客の数を目的変数、経営状況や提供サービス、インターチェンジからの距離など、13項目を説明変数として重回帰分析を行った。<BR><BR>3.結果<BR> 個々の農園の観光客数をみると、最も多い農園は一万人規模、小さい農園は数百人規模であり、集客力には大きな差があった(図1)。<BR> また、重回帰分析を行った結果、「食べ放題の有無」、「個人ウェブサイトの有無」、「駐車可能台数」、「農協などへの出荷の有無」、「ワインなどの販売の有無」が回帰モデルの観光客数を説明する変数として選択された。農園のサービスに関わる食べ放題やワインなどの販売、規模を示す駐車可能台数などが回帰モデルには含まれていたが、インターチェンジからの距離などの空間的指標は選択されなかった。ウェブサイトの有無が回帰モデルの変数として選択されたことから、観光客は特定の観光農園の位置やサービス内容などの情報をもって目的地へと向かうことが多いと考えられるため、従来の集客に関する立地上のアドバンテージが相対的に低下している可能性がある。