日本地理学会発表要旨集
2014年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: S0804
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発表要旨
事業者の立場から見た地方公共交通の課題とその対策
両備グループの取り組みを事例に
*豊田 賢
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抄録

 Ⅰ.はじめに
 2002年に施行されたバス事業の規制緩和は,全国的にバス路線の縮小,整理の動きを相次がせることとなり,結果的に事業者の倒産や法的整理を招くこととなった.
 両備グループでは,以前からこの動向を予見し,公共交通を今後も維持,発展させていくという決意のもと,交通運輸事業の再生に取り組んできた.
 両備グループで携わった交通運輸事業再生の事例は現在までに15社を越え,再生の渦中で多くの課題に直面することとなった.本発表では,主に乗合バス事業を中心に,両備グループがこれまでに行ってきた公共交通再生の実例を通じ,現在の地方公共交通の課題とその対策を考察する.
 
 Ⅱ.中国バスの事例
 2006年12月の中国バスの事例では,補助金政策が大きな課題となった.前事業者の経営コストは,同業他社と比較しても異常に高く,これが経営を圧迫している一因であることは明確であった.従来の補助金は = 赤字補填で,利益を認めておらず,補助金で延命してきた企業にとっては,企業努力によるコストダウンは補助金の減額を意味し,企業の利益にならないという経営感覚を生じさせた.いくら赤字を出しても補助金で補填されるという考え方から,顧客不在の経営やストライキが恒常化し,劣悪な労使関係の中で乗客数は急激に減少し,経営悪化に拍車をかけた.
 
 Ⅲ.井笠バスの事例
 2012年11月の井笠鉄道の事例では,全国的にも稀な経営破綻によって路線バス事業が全廃されるという,極めて異常なものであった.両備グループでは,道路運送法第21条1項による緊急措置として,12月から中国バスが代替運行を担い,翌年4月から井笠バスカンパニーを設立して運行を引き継いだ(一部は中国バスが代替運行を継続). 
 この原因は,規制緩和以後,政策的に「儲からない路線はやめるべき」という誤った費用対効果概念が蔓延し,本当に必要な補助金が有機的に機能しなかったことが挙げられる.井笠バス路線の大半は収支率が50%程度と極めて悪く,今後も少子高齢化によって乗客の減少が見込まれること,赤字部分を支える収益を生む付帯事業が皆無なことから,新たな民間企業による再生は不可能と考えられた.

 Ⅳ.今後の地方公共交通の課題
 以上のように,規制緩和以後,バス事業を取り巻く環境は大きく変容し,誤った補助金政策によるモラルハザードと,誤った費用対効果概念の蔓延による弊害により,多くの事業者が経営の危機に立たされた.
 公共交通を民間に任せっきりにしている先進国は日本のみであり,今後は抜本的に補助金制度を見直し,現在の延命策から,永久に維持できるシステムへと政策転換させることが必要である.そして,事業者自身も,行政や地域と連携した取り組みを構築し,これまでの輸送に特化した公共交通から脱却することも必要である.先進的な取り組みと付加価値の高いサービスは,これまでの「単純な輸送手段」としての公共交通のイメージを払拭するきかっけとなり,公共交通再生の一助となると考えられるためである.

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© 2014 公益社団法人 日本地理学会
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