日本地理学会発表要旨集
2015年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 407
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発表要旨
中国人技能実習生とホスト社会との接点
―石川県白山市と加賀市を事例に―
*宋 弘揚
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抄録

1.はじめに
日本の地域経済にとって必要不可欠な存在となっている外国人労働者、とくに日系ブラジル人と外国人技能実習生が近年注目されてきた。こうしたなかで,日系ブラジル人の生活行動・労働問題・教育問題・自治体による外国人施策・ホスト側住民の意識などに関する研究が蓄積されてきた。一方、「定住者」である日系ブラジル人と異なり、在留期間が基本的に3年に限られ,再来日も困難な技能実習生については取り上げられることが少ない。しかし、「定住者」でないとはいえ、多文化共生社会を形成するために、技能実習生とホスト社会との接点に関する検討も必要である。
そこで本稿では、石川県白山市および加賀市の中国人技能実習生がいかにホスト社会との関わりを構築しているのかを、彼・彼女(以下、彼と表記する)らの実態、とくに来日目的の変化、就労と日常生活、ホスト社会との交流状況について分析し、彼らの日常生活に関わる関連団体や企業などがどのような役割を果たしているのかを考察することから明らかにする。  

2.研究対象地域と方法

2014年6月末現在、石川県の在留外国人の総数は10,417人、このうち技能実習生は2,590人である。白山市に在留する中国人は452人で、外国人総数の754人の60%を占める。なお、白山市では在留資格別外国人統計が公表されていないが、関係者によると、中国人の約半分は技能実習生となっている。2014年4月の加賀市の外国人住民655人のうち中国人は306人と 47%を占めている。そのうち技能実習生は224人であり、外国人総数の34%を占めている。これらのことから、石川県において白山市と加賀市は中国人技能実習生の割合の高い地域といえる。
研究目的を達成するために、調査方法としてアンケート調査とヒアリング調査を実施した。アンケート調査は留め置き法を採用し、白山市国際交流サロンおよび加賀市の技能実習生の第一次受け入れ監理団体であるK組合に依頼し、白山市および加賀市に在住する中国人技能実習生から前者で24人、後者で20人の回答を得た。計44人のうち22人にヒアリング調査を実施した。この他に、彼らの日常生活に関わる関連団体や企業として中国山東省青島市にある技能実習生の送り出し機関A社、送り出し機関を管轄するE機関、加賀市にある技能実習生の第一次受け入れ監理団体であるK組合、白山市国際交流サロンへヒアリング調査を実施した。これらの調査で得られたデータを補足するために、技能実習生が来日前に受ける「外派労務試験」という派遣労働者のための日本語能力試験における日本語能力水準を試験監督官として観察した。被観察者は青島市の技能実習生の送り出し会社A社、B社、C社、D社の技能実習生で、観察に加えて各社の技能実習生の「外派労務試験」の平均点に関するデータを得た。  

3.研究結果
かつてのような経済活動を主目的とする技能実習生が半数を占める一方、日本文化や日本での生活体験を希求する技能実習生も約半数に上った。彼らの多くは日本に対して興味を持っており、来日前も来日後も日本語の学習に熱心に取り込んでいる。そして国際交流団体を通じて職場外の日本人と積極的に関わることで、ホスト社会との接点を作っている。技能実習生に関して、経済目的を主眼としているというこれまでのような理解は、不十分となりつつある。  
また、技能実習生をめぐる中国の送り出し機関などの各主体へのヒアリング調査を通じて、技能実習生がホスト社会と関わりもつための契機や制約が明らかとなった。まず、中国の技能実習生送り出し機関による来日前の日本語教育への積極性と事前指導のあり方は、来日後の技能実習生の日本語能力やホスト社会への参加意識に影響を与えていた。同様に、日本の受け入れ監理団体は、技能実習生に対する管理と指導、その他の取組みを通じて、来日後の技能実習生のホスト社会への参加に影響力を与えていた。日本の国際交流団体は、送り出し機関や監理団体とは別箇に、技能実習生に日本語の教育機会を提供していた。国際交流団体は、その存在があまり知られていないという課題はあるものの、来日の経路を問わずに技能実習生とホスト社会とを結節させる役割と可能性を有しているといえる。

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