日本地理学会発表要旨集
2015年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: S0106
会議情報

発表要旨
ESDとジオパーク
*河本 大地
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

Ⅰ.はじめに
本発表では、ESD(持続可能な開発のための教育、持続発展教育)とジオパークの両者がそれぞれ持つ考え方や活動を掛け合わせることが、社会の未来づくりにどのように寄与するのかを検討する。 ESDとジオパークの両方の言葉を用いている少数の先駆的事例(本要旨では割愛)をみたうえで、筆者の参加した2014年11月の「ESDに関するユネスコ世界会議」フォローアップ会合(名古屋市)でなされた議論等を参考にし、今後の可能性を述べる。  

Ⅱ.ESDとは
日本ユネスコ国内委員会によると、ESDは「現代社会の課題を自らの問題として捉え、身近なところから取り組む(think globally, act locally)ことにより、それらの課題の解決につながる新たな価値観や行動を生み出すこと、そしてそれによって持続可能な社会を創造していくことを目指す学習や活動」で、「持続可能な社会づくりの担い手を育む教育」と言える。ESDの実施には、「人格の発達や、自律心、判断力、責任感などの人間性を育むこと」、「他人との関係性、社会との関係性、自然環境との関係性を認識し、『関わり』、『つながり』を尊重できる個人を育むこと」が必要とされる。 日本の小・中・高校では、「持続可能な社会」という用語で新学習指導要領にESDの学習が盛り込まれている。また、2014年には岡山市および名古屋市で「ESDに関するユネスコ世界会議」および関連イベントが開催された。  

Ⅲ.ESD×ジオパークで拓く社会の未来
ESDとジオパークのかけ算をすることは、大きく分けて3つの点で社会の未来づくりに寄与すると考えられる。 ①   社会的実践力の向上  ジオパークでは、つながりが重視される。これには、大地と生態系と人々の暮らしのつながり、域内の人と人のつながり、保全・教育・地域振興のつながり、異なる学問分野のつながり、異なるジオパークどうしのつながりなど、多数のパタンが存在する。ESDの実践には、つながりの理解や、つなぐ力を育むことを目的とするものが多いため、この点の親和性は高い。  また、つなぐ力を育むには、社会的実践の中で関係者の利害を深く知り、関係者間の折り合いをつける必要がある。そこには、何かの実践に関してアクティブな人とアクティブでない人がつながる場を創出することも含まれる。その中では、忍耐力、打たれ強さ、相手を理解しようとする心などが重要となる。ジオパーク活動は、これらを含むことの多い、未来志向の社会的実践である。 ②   ジオ教育(地理・地学・地域に関する教育)の充実 日本のジオパークにおけるESDと銘打った学習活動には、防災・減災に関わる内容が多い。そこでは、地球科学の基礎的知識、特に地震災害や水害等の発生メカニズムをもとに、身近な地域での学習が行われている。 災害関連以外に関しても、地球科学と地域づくりに面白さを感じる人が増えることには大きな意義がある。地学的遺産の保全や、大地に根ざした暮らしについて、ESD教材の開発を進めたい。それには、教育関係者がまずは個々にジオパーク活動に参加し、わくわくできるようにする必要があろう。ESDとジオパークがつながれば、その可能性は増す。このほか、地域の観光をどう持続可能にしていくかをESDのテーマとして扱う際などにも、ジオパークは扱う枠組みや視点を提供できる。 ③   活動の場や分野の拡大 ESD活動もジオパーク関連活動も、さまざまなステークホルダー(理解関係者)が関わっているのが大きな特徴のひとつである。しかし、両者は得意とする場や分野や異なっている。 ジオパーク側としては、ジオパークにおけるユネスコスクールがいずれも積極的にジオパークに関わる学習内容を扱うようになれば、メリットは大きいであろう。また、ESDでは公民館の役割が強調されており、ジオパーク関連活動がそこに加わることができれば生涯学習への広がりも増すことができる。 他方、ESDでは「地域の取組」が強調されるが、そこで言われている「地域」の意味やスケールはほとんど整理されていない。ジオパークが強みとしている部分がそこに生きてくる可能性もある。地域のとらえ方、地域の変え方・つくり方に関してジオパークの特定の地域を基盤に学び、ジオパークのネットワークを活かして日本や世界の各地で比較・応用することも視野に入れたい。

著者関連情報
© 2015 公益社団法人 日本地理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top