日本地理学会発表要旨集
2015年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 121
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発表要旨
山形県真室川町における「森林トロッコ列車」の利用形態の特色
*中牧 崇
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抄録

本発表では、山形県最上郡真室川町の町営の温泉・宿泊施設「まむろがわ温泉梅里苑」(以下、「梅里苑」)における「森林トロッコ列車」(以下、「トロッコ列車」)の利用形態の特色について明らかにする。真室川町の重要な観光資源になっているトロッコ列車は、かつて森林鉄道で使用された動態保存のディーゼル機関車(2009年に経済産業省の近代化産業遺産に認定)が客車と運材台車を1両ずつ牽引して、梅里苑がある町有地で、5~10月の土日と祝日に約1kmのレールを1周している。2014年4月には消費税率が8%になったが、トロッコ列車の乗車賃は1周(1回)100円に据え置かれている。真室川町役場と梅里苑では、トロッコ列車の利用者の確保が観光による町の活性化につながると考えているが、その利用形態の特色について必ずしも十分把握していない。

今回の調査は、2014年5月4~6日と2014年9月13~15日に実施した(9月13日は山形DCの最終日)。アンケート調査では、利用者に調査票を配布し、利用者自身が記入する方式で回答を求めた。質問項目は、利用の属性(年齢・性別・居住地)、同行者の有無、梅里苑に来た目的、トロッコ列車の存在をはじめて知った理由と乗車回数、機関車が近代化産業遺産に認定されていることへの既知、トロッコ列車の乗車以外ですでに利用したorこれから利用する(予定の)梅里苑内の施設の有無、トロッコ列車の乗車以外ですでに訪れたorこれから訪れる(予定の)観光地の有無などである。なお、項目の内容により、記入者のみを対象とした回答(全6日間で221人)、記入者と同行者を対象とした回答(全6日間で700人)が得られた。また、アンケート調査の内容を補充する形で、梅里苑での観察と聞き取り調査も行った。

トロッコ列車の利用者(記入者と同行者)の年齢層は、家族連れを中心に幅広いが、そのなかでも中学生以下の子どもは46.0%である。利用者の居住地は、山形県内を中心とする東北地方、群馬県・神奈川県を除いた関東地方にほぼ限定される。山形県内ではおおむね各地に及び、特に真室川町内と近隣の新庄市(ともに最上地域)が多い。しかし、日によってばらつきがあり、5月4日と5日は町内からの利用者が少ない。これは、真室川公園での梅まつり(4日には梅の里マラソン大会が開催)に足を運ぶケースや、観光などで町外へ足を運ぶケースが多いためと考えられる。さらに、9月13日は新庄市からの利用者が皆無である。これは、前日の午後の最上地域は大雨であったうえ、当日の「山形DCクロージング企画 “山形DC”ありがとう!!スマイルプロジェクト」に参加したためと考えられる。
記入者がトロッコ列車の存在をはじめて知ったのは、「家族・友人からの話を聞いて」が最も多い。なお、同行者のなかには、回答の「家族・友人」が少なからず含まれていると考えられる。以下、「梅里苑のホームページを見て」、「真室川町のお知らせを見て」と続く。なお、5月4~6日に限り、「新聞を見て」の回答が多い。これは、主に5月4日付「山形新聞」のトロッコ列車の記事(写真付)を見た真室川町外在住者の回答であり、掲載日と同じ4日に日帰りで梅里苑に来たケースが中心である。
過去にトロッコ列車に乗車したことがある記入者は約32%であった(真室川町民に限定すると約68%)。また、機関車が近代化産業遺産に認定されていることを知っているのは約17%にすぎなかった(真室川町民に限定すると約27%)。記入者だけでなく同行者の多くが、ただの「かわいい機関車」として受け止めていることは、近代化産業遺産としての価値を認識してもらううえでの課題である。
トロッコ列車の利用者の約90%は、梅里苑内の公園をはじめ、温泉・買物・食事などの利用でしばらく滞在する。これは、梅里苑に来ることを主な目的としているためと考えられる。しかし、利用者の約69%は日帰りであるうえ、帰省や旅行など(2~6日間)では帰省先や真室川町外で宿泊するケースが多い。また、梅里苑の宿泊客がチェックアウト後、トロッコ列車を利用しないで直ちに去ってしまうケースもみられる。トロッコ列車の乗車と梅里苑での宿泊をリンクさせるための取り組みも必要である。
トロッコ列車の利用者の約14%は、梅里苑以外の観光地にも足を運ぶ。例えば、5月4日と5日には真室川公園での梅まつり(4日はマラソン大会)、新庄市にある最上公園でのカド焼きまつりに足を運ぶケースが、9月13日と14日には近隣の鮭川村(最上地域)にある羽根沢温泉、鮭川村エコパーク、トトロの木(14日にはトトロの里マラソン大会が開催)に足を運ぶケースが目立つように、真室川町内や近隣市村での観光イベントの開催もトロッコ列車の利用者の動向に少なからず影響を及ぼしているといえる。

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