日本地理学会発表要旨集
2015年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: S0204
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発表要旨
消防・防災分野での地理学の役割と期待
*齋藤 健一
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キーワード: 防災, 地域特性, 多様性
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抄録

. はじめに
 地理学は、地域を取り扱う空間科学であり、地域の多様性を扱うに特徴がある。一方、消防や防災も、各地域の現場で活かす分野である。こうしたことから、地理学と消防防災分野には共通点や類似点もあると考えられる。本稿では、著者の経験から地理学の効果や課題について考察してみたい。 
. 消防庁の任務と役割
 消防庁は、総務省の外局として位置付けられ、多様化する火災等を未然に防ぐことや、消防活動により命を救うといった平常時に各市町村が行う消防活動を支える消防行政の礎としての役割を担っている。また、東日本大震災といった地域の消防力では対処できない災害において、地方自治体と連携し、被害の全容を把握するとともに、全国的な見地から緊急消防援助隊の派遣などを行い、被害の抑制にあたっている。こうした対応のため、平常時から、これら大規模災害対応に対する制度等に関する企画立案の役割も担っている。
3. 消防庁の仕事に対する地理学の役割
 このように、消防庁は地方自治体が実施する消防防災行政のさまざまな制度の企画立案を主として行っているが、各自治体はそれぞれの地域性があることから、地域にあった形で制度を運用していく必要がある。例えば、住民への災害情報の伝達手段の多様化といった施策に対し、各自治体へアドバイスを行うためには、伝達手段についての知識のみならず、地図や各種統計からの地域特性を理解することが有効であり、地理学で扱う知識・技術を必要とする。また、大規模災害時に、現地の地形図等の読図を行い災害の危険性を自分なりに把握することは、今後の必要とされる活動を考えるうえで重要である。
4. 自治体における防災業務の特性と地理学
 一方、消防や防災を各地域で担う市町村では、地域防災計画の改訂などで、地域特性を見据えた災害対策が求められる。災害対応を時間軸で考えれば、災害直後から住民の命を守る、命を永らえる、通常生活に戻るといったステップがあり、市町村内のそれぞれ地域単位(例えば、学校区、町内会、集落等)に合わせた対応が望まれる。そのため、津波からの避難のあり方や避難所運営など平常時から実施すべき対応など、特に住民に密接に係るものは、自然地理学、人文地理学・地誌学の各研究手法をフル活用することが求められる。 また、災害対応時には、防災担当者は主に災害対策本部で業務を行い、現場からの断片的な情報をもとに、判断を迫られることもある。このため、平常時から市町村内の状況を把握し、理解をすることが求められる。地域を自分なりに整理し理解する作業は、フィールドワークを始めとした地理学の研究手法そのものであり、これまで、さまざまな仕事に活かせていると実感してきた。
5.防災分野における地理学への期待
 このように、空間科学としての地理学は、防災を担当する公務員として重要な技術であるが、防災の現場においては、地理学からの提言が必ずしも活かされていないと感じている。これは、地理学による提言の範囲が、ハザードマップの作成といった面に特化し、どのように活用すべきかを住民生活や行動に訴えきれていないからだと認識している。 防災・災害対策は、住民に実践されることではじめて効果を発揮する分野であるため、地理学から得られる知見を、行政はもちろんのこと、住民レベルでも理解されるような工夫が期待されていると考える。
6.おわりに
 地理学を履修後、消防庁に入庁し、防災・災害対策に携わってきた経験から、地理学の手法は極めて重要なものと認識し活用してきた。防災が空間科学としての地理学に求めている役割は大きいものと考えており、今後、防災施策や実践に対して、地理学からの提言が積極的に行われることを願っている。

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© 2015 公益社団法人 日本地理学会
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