日本地理学会発表要旨集
2015年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 818
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発表要旨
中国延吉市における情報サービス産業の立地状況と雇用条件
韓国・朝鮮語人材の動向に着目して
*李 商益阿部 康久
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抄録

本発表では、中国において海外からのオフショア業務に適した人材が多い地域である吉林省延辺朝鮮族自治区の中心都市である延吉市を対象として、情報サービス産業の進出と立地の状況や従業員の雇用条件を検討することを目的としている。 近年,情報通信技術の急激な普及にともない,情報サービス産業(ソフトウェア産業・通信ネットワーク業等)の立地パターンに変化が起こりつつある(阿部2012)。グローバルスケールでみると,先進国のソフトウェア開発業務やバックオフィス業務等が,よりコストが低い海外へ移転する現象が顕著にみられるようになっている。しかしながら、オフショア業務に従事できる人材の供給地であっても、他の条件が十分に備わっていない場合は、必ずしも、オフショア業務の有力な進出先とはなり得ない可能性もあると考えられる。その場合、より条件の良い雇用が存在する地域への人材の移動・流出が顕著になる可能性も考えられ、そのような現象を具体的な地域を事例に検討していく必要がある。 本稿では、情報サービス産業の立地状況と雇用条件について調べるに当たって、はじめに当該地域において最も信頼され、使用頻度も高い求人情報サイトを検索し、募集がなされている情報サービス関連の求人を集計・整理し、延吉市内での企業の分布状況を調べた。加えて、募集企業の本社所在地、学歴面での条件、賃金、勤務地の情報等について収集し、進出企業数や業務内容等について検討した。加えて2014年8月に延吉市にある「国家高新技術産業開発区」に進出した企業を中心に9社に対してインタビュー調査や電子メールによる問い合わせを行い、進出理由や従業員数、従業員の民族別構成等についての情報を収集した。また、開発区委員会等の公的機関での資料収集も行った。 調査の結果、延吉市内には、主に国内企業や韓国企業を中心に情報サービス産業のある程度の立地がみられる。進出企業へのインタビュー調査によると、当初は、韓国語を理解できる朝鮮族住民が多く、しかも賃金水準が低かったことが進出の大きな要因となっていたが、近年では賃金水準が上昇しており、進出企業の中には法人税やオフィス賃料の減免といった優遇政策を受けるために、開発区内にある産業園区内のオフィスに入居する企業も多くなっている。延吉市政府の側からみると、賃金水準等が上昇していく中で、進出企業を引き留めるために、企業に対して優遇措置の対象となる基準を、事実上は緩和せざるを得ない状況にあると考えられる。 さらに、求人情報の分析を行った結果、企業進出が顕著になり始めた2006年頃に比べると、延吉市内を勤務地とする求人の賃金水準は高くなっているものの、国内の大都市や海外を勤務地とする求人に比べると、賃金水準が低いことが分かった。その要因として、全般的にみると延吉市の賃金水準は上昇しているものの、勤務の内容をみると単純作業に近い求人が多く、高賃金が期待できる職種や勤務内容での求人が少ないことが指摘できる。

  文献
フリードマン著,伏見威蕃訳(2008):『フラット化する世界(上)増補改訂版』日本経済新聞出版社.
阿部康久(2012)「中国大連市に進出した日本語コールセンターの存続状況」,地理科学,67:51-69.

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© 2015 公益社団法人 日本地理学会
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