日本地理学会発表要旨集
2016年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 807
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要旨
久米島東岸の堡礁地形: マルチビーム測深と潜水調査を基にした海底地形学
*菅 浩伸長谷川 均藤田 和彦長尾 正之中島 洋典堀 信行
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抄録

1.はじめに
サンゴ礁地形は非サンゴ礁域の海岸地形より複雑であり,地形用語も多い。サンゴ礁地形の全体像を記載することは,サンゴ礁環境のより精密な理解を進める。しかし,堡礁の深い礁湖や礁斜面については,記載されることがほとんどなかった。本研究ではマルチビーム測深技術を用いて,琉球列島久米島東岸に広がる堡礁の精密海底地形図を作成するとともに,SCUBA潜水やVTR撮影による観察とあわせて,従来にない精度で礁地形の記載を行った。

 2.調査地域と方法
琉球列島でみられる3カ所の堡礁の1つ,久米島東岸に発達する堡礁(東西12 km,南北3~5 km)中にはハテノハマなどの洲島列が成立する。本研究では洲島南部の礁湖~島棚(幅1.8km, 岸沖方向6.5km, 水深0.4~161.3m)と,北部の礁縁~島棚斜面(幅2.2 km,岸沖方向0.5~0.6 km,水深0.6~282.4 m)で測深を行い,1~2mグリッドの精密海底地形図を作成した。その後,作成した海底地形図を基に41地点で潜水調査を行うとともに,水深50m以深の13地点にてVTRによる観察を実施した。

3.久米島東部の礁地形
南部の堡礁は,測深域西側でパッチリーフ群による二重のリーフエッジが形成される。ここでは比高の高い縁脚と深く切れ込んだ縁溝が礁縁を構成する。これらの縁脚縁溝系は幅10~20 mのものが多くNNW-SSW方向に配列する。礁縁部には塊状の離礁の地形を呈するものも多いが,離礁下部を縁溝がリーフトンネルとして貫く。縁溝上部がサンゴの成長によって閉じ,隣接する縁脚が連結して塊状の離礁が形成されたことが分かる。台風後にサンゴ礫が移動した痕跡は最も外洋側の離礁群で顕著であった。
一方,東側海域では頂部水深15~20 mの潜堤列状の縁脚縁溝系が礁縁を構成する。このため,礁湖への波浪の侵入が西側海域より大きく,礁湖内で以下の地形が特徴的にみられる。礁湖内の 水深20~25mに形成された縁脚縁溝系,環状砂礫州やすり鉢状凹地が背後に形成された離礁,巨礫サイズのサンゴ礫が移動した痕跡などである。
礁斜面下部の縁脚は西側海域で発達が良いが,水深を増すにつれて幅と比高が小さいものが多くなる。水深50 m以深では規則的配列を示す縁脚縁溝はみられず,小規模なマウンド群が水深73 mを下限として分布する。水深50 m以深の地形には東西海域での違いは認められない。
水深73 m以深は,およそ3 kmにわたって平坦な島棚が広がる。島棚には水深80 m,85~86 m,90~95 mの平坦面が認められ,それらは比高4~5 mの小崖で境される。また,島棚斜面上に頂部水深135 mの高まりが複数存在する。VTR観察の結果,これらの頂部に礁構造とみられる地形および岩石が認められた。
北部の礁斜面は南部と対照的に急峻である。礁縁部の縁脚縁溝は,比高を減じながらfurrowed platformの形状を呈する水深5~10mの上位平坦面へつづく。平坦面端部は水深10 m~40 mの急崖で,その前面に水深60 mの段化地形が分布する。一部では水深95~110 mを端部とする小規模な段化地形も複数認められる。このうち,VTR撮影による観察を行った-95 m 面端部には縁脚を伴う地形がみられた。
 
4.本研究の海底地形学に対する貢献
久米島東岸の堡礁測深域のうち,水深の深い礁縁をもつ東側海域では,礁縁が閉じた西側海域とくらべて,礁湖内の地形や堆積物に大きな違いがある。これは礁嶺が未発達であった完新世中期の状態(完新世高エネルギーウィンドウ)で形成された地形や堆積物についての理解につながる。また,島棚~島棚斜面で発見された地形群は,将来,最終氷期における琉球列島の海水準・古環境を復元する重要な場となることが期待できる。

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