日本地理学会発表要旨集
2016年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 602
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要旨
GISを用いたアクセシビリティの分析
神奈川県地域保健医療計画を事例として
*小林 優一
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抄録

我が国の地域医療計画の現状として、制度に明記された文言の背景には、医療圏の定量的な評価が必要だとされているが、GISによる分析技術の普及前は行政区域による圏域設定が一般的であった。本稿では、GISによる診療圏分析を行うことで、神奈川県次期「地域医療計画」へ医療圏域内外のアクセシビリティの分析手法のひとつとして、GISがどの程度、実証的に分析出来得るのかを示した。  
地域医療計画の最新の政策動向としては、厚生労働省(2012)次期医療計画の作成指針に「自然的社会的条件を無視した医療圏設定になる可能性が有ること。」が指摘された。だた、先行研究より、医療圏再設定の条件として示されている①人口規模や②流出入率の具体的な数字に関し、根拠と成り得る資料等は無いことが分かった。本稿では、医療圏域の設定の評価を行う前段階として、先ず神奈川県内の医療圏域(全11医療圏)の構造を分析する為に、日常生活圏を設定し、GISを用いて医療施設から到達圏分析を行った。
高齢者の日常生活圏は、石原(1984)、登張ら(2003)(2004)を参考に、大都市部・地方部問わず、時速3km/h(徒歩速度)で500m圏内に設定した。これらの結果から研究対象地域の病院・診療所からの時間距離の10分を日常生活圏として設定し、到達圏分析を行った。次に、田中(2001)を参考に、如何なる移動手段を用いても、日常生活圏に関しては、医療機関から30分圏域を移動に伴う最長時間と設定し、医療機関からの道路ネットワークを用いて到達圏を分析した。
また、神奈川県全域の医療機関、病院(全343施設)・クリニック(全6544施設)を対象に、標榜出来る診療科33科ごとに到達圏分析を行った。その結果、神奈川県では、「人工透析施設」が横須賀三浦地区で不足している点が分かった。神奈川県次期「地域保健計画」中に、人工透析が可能な施設数が相対的に不足していることから、その事実を加筆し、今後の対策を同時に考えていく必要性があることを指摘したい。
最後に、今後の人口構造の変化に伴い、病院間の統合や新設に関する議論が活発に進んでくることが予想される。この時流に従い、本稿では、計画予定の交通インフラ拡張及び病院新設の神奈川県藤沢市の事例を参考に、当該地区のアクセス構造の変化について、GISを用いて分析した。その結果、湘南藤沢記念病院(仮称)から距離にして30分圏域に藤沢市全域で高齢者人口数が相対的に多い沿岸部、つまり片瀬江ノ島周辺地区まで、到達圏域が拡張されたことが分かった。
 

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