日本地理学会発表要旨集
2016年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: S0406
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要旨
公園管理のあり方
-イギリスの国立公園を例に-
*松尾 容孝
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抄録

本報告の目的は、イギリスの国立公園での取り組みを参考に、地域制公園の管理のあり方・方向性を提示することである。イングランドとウェールズを例に、次の3点を検討する:1.制度と運営組織、事業群が、環境の保全と向上にいかに結びついているのか。2.1999-2004年土地管理事業LMIにおける「地域社会との、地域社会のための保全活動」の内容と意義。3.ステークホルダーやナショナルトラスト等の関連機関の活動の内容とパートナーシップの役割・機能。
1.
<制度:所管機関と権限>イングランドとウェールズでは、1949年国立公園・田園アクセス法の制定により国立公園が誕生した。中央所管機関は、国立公園委員会→1968年カントリーサードコミッションCC→イングランド1999年カントリーサードエージェンシーCA→2006年ナチュラルイングランドNE、→ウェールズ1991年カントリーサイドカウンシルCCW。地方所管機関は、カウンティ議会公園管理委員会の権限が、1995年環境法第三部により全国立公園において独立した国立公園局に移管された。1990年都市農村計画法により、ストラクチャープランとローカルプランを国立公園にも適用し、1995年環境法(第三部)により、カウンティとディストリクトの議会権限が移管された国立公園局が管理計画(マネジメントプラン)と土地利用計画(ローカルプラン)の策定機関となった。
<運営組織>政策・管理計画は各公園で委員(メンバー)18~30人が策定し、実務は職員(スタッフ)70~280人が行うほか数百人のボランティアがいる。部門長が職員を組織し、委員とも定期的に協議。部門は、レンジャー(監視員)、訪問客サービス、開発規制・相談、生物多様性・生態系・建造物・考古遺跡の保全、通行権のある道やインフラ整備、外部機関とのパートナーシップ、農林業・ビジネス・コミュニティ支援、教育啓発、GIS、コーポレートサービスなど。
 <目的の整備・拡充>
「自然美を保存しその価値を高める」→「自然美、野生生物、文化遺産を保全し、その価値を高める」
「人々の享受を促進する」→「国立公園特有の性質に対する人々の理解と享受の機会を促進する」
環境法第62節により、1974年Sandford原則(保護と享受が衝突した時は保護を優先)を、国立公園に関連をもつ全機関に適用し、国立公園の目的を尊重している事実の証明を義務づける。
回状12/96により、自然及び人間による産物である国立公園の特性の保全のため、国立公園局は公園内のコミュニティとともに、コミュニティのために活動しなければならない。・・公園域内において経済的・社会的発展を国立公園局が引き受けてはいけない。それを追求する諸機関や公的団体と協働して実現を目指す。
2.
イングランドの国立公園では、1990年代前半~2000年に海岸・流域・森林・ムーア等の環境保全事業、1999~2004年に土地管理事業、2000~2000年代半ばに農業・食糧事業や農村ビジネスとサービス提供事業が順番に実施された。
CAによるLMIは、土地所有者の農民・農業事業体と非所有者の地域社会のまとまりを再構築して、環境・社会・経済の広範な便益の形成を目指すパイロット事業である。農業・農民の衰退、景観と野生生物の多様性の喪失に対して、農業-環境政策に転換し、農業経済の多角化、農家と地域社会の一体化再構築を環境保全と併進させる事業として実施された。
ノースヨークムーア高地では、LMI以前の事業群で培われたパートナーシップにより、目標は同一でない国立公園局と農民・地域社会と関係機関が、環境・社会・経済・文化を分担して優先目的群推進の活動ダイアグラム群を立案し、助成資金の獲得による目的達成をきめ細かく検討して活動を前進させ、資金獲得が困難な事業ではボトムアップによる農家と地域社会の一体化活動(コミュニティ管理人、直売所)の側面支援を提案した。ノースヨークムーアLMIの成果は2006年イギリスのCAP改訂案に反映(CSS→ELS, HLS。地産地消の拡大)された。
3.
ナショナルトラストNTは、1895年誕生以来、撤退農家の農園を購入して、民間開発の阻止、環境保全型農業を模索してきた。NTはスノードニア国立公園の8.9%の土地を所有し、多数の専門職員を雇用して事業を営む。事業収入を再投入して、農園経営、生物多様性の回復・土地の管理保全とともに、教育啓発活動等での近隣の農家・地域社会からの雇用やパートナーシップ事業での協働、新規営農支援等を行う。地域振興や事業運営において、国立公園局の側面支援とは異なり、事業主体として環境保全と地域振興を推進し、起業家精神の醸成に努めている。
4.
 公園目的の整備、多様な現地組織の活動、ソーシャルキャピタル育成が特筆できる。 

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