日本地理学会発表要旨集
2016年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 409
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要旨
媒介機能からみたスポーツ合宿地の存続形態
―長野県菅平高原を事例に―
*渡邊 瑛季
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抄録

Ⅰ 序論
マスツーリズムの縮小は1990年代以降,宿泊施設の廃業やスキー場閉鎖などの日本の観光地域の停滞をもたらしており,観光の持続性が課題となっている.一方で,先進国では1990年代以降,スポーツの観光資源としての認識が広まり,スポーツツーリズムと呼ばれる新しい観光形態による観光振興が進められている.
その中でもスポーツ合宿は,スキー,海水浴などと並んで日本の農村の観光地域化に寄与した.これらの目的地に関する研究蓄積は観光地理学でみられ,観光地化の過程や宿泊施設の経営形態などホストが分析された.スポーツ産業論や観光学では,観光者の行動特性や目的地決定過程などゲストが分析された.しかし,観光地域の持続性を考察するためには,ホストやゲストの分析のみでは不十分であり,それらを結びつけていると考えられる媒介機能を分析する必要がある.押見ら(2012)はスポーツ合宿地の決定過程での旅行会社などの媒介機能の深い関与を示唆しているが,その実態には踏み込めていない.欧米では2000年代以降,ツーリズムにおける媒介機能を対象とした研究が蓄積されつつある(Song, 2012など).しかし,ゲストと媒介機能の関係を示した研究が多く,ホストとの関係やツーリズムの持続性の観点からの検討が不十分である.また概念的研究が多く,実証的研究に乏しい.
本研究ではスポーツ合宿地の存続形態を媒介機能に着目して明らかにする.事例地域の菅平高原は長野県上田市北部に位置し,828(2015年時点)のラグビーチームの来訪や109面のグラウンドに特徴づけられるスポーツ合宿地である.
Ⅱ 宿泊施設における媒介機能の利用パターン
菅平高原には116軒の宿泊施設が立地し,ほとんどが家族経営である.このうちスポーツ合宿の受入は110軒でみられる.おもな媒介機能は,宿泊施設への直接予約と合宿の取扱を得意とする旅行会社である.これらの利用パターンには2点の特徴がみられる.1点目は,利用する媒介機能がゲストの競技種目によって大きく異なっている点である.菅平高原におけるスポーツ合宿の種目はおもにラグビー,サッカー,陸上競技である.ラグビー,陸上競技は直接予約,サッカーは旅行会社からの予約が多い.この要因についてはⅢで述べる.2点目は,旅行会社からの受入割合が,宿泊施設の収容人数と私有するスポーツ施設の数によって変動する点である.これらの数が多い宿泊施設では,客室稼働率を上昇させるために,旅行会社からの受入がみられる.しかし,仲介手数料が発生するため,旅行会社からの受入には消極的な経営者が多い.このため,菅平高原の宿泊施設は直接予約によるゲストの受入を重要視し,旅行会社の利用は補完的な位置づけである.
Ⅲ ゲストにみられる予約方法の差異の背景
ゲストが直接予約を選択する背景には,指導者の人脈による強豪校の来訪と練習試合の実施がある.ラグビーの場合,菅平高原での合宿目的は,練習試合の実施である.高校や大学のラグビー部の強豪校が日常生活圏にはいない遠方のチームと練習試合を行い,これが菅平高原での合宿の魅力である.試合を組むには,高校の場合,おもに指導者の出身校,全国大会での対戦経験が重要な契機になる.練習試合の実施には滞在日程の調整が必要であるため,ゲスト同士で空室がある宿泊施設を紹介することがあり,直接予約に結びつく.試合で利用するグラウンドはホスト同士で協力して調整している.陸上競技の場合は,競合する合宿地が比較的多いため,指導者が合宿地を吟味し直接予約する.その際に知人である別の指導者から宿泊施設が紹介されることもある.サッカーの場合は,指導者の人脈が合宿地選定に利用されにくく,旅行会社が菅平高原での練習試合のマッチングを行っている.
Ⅳ 結論
菅平高原は強豪校の練習試合実施やトレーニングの場として利用されており,そのためにホストまたゲスト内部で完結する媒介機能が卓越するスポーツ合宿地として存続している.この基盤には多数の宿泊施設とグラウンドの集積がある.
文 献
押見大地・原田宗彦・佐藤晋太郎・石井十郎 2012. スポーツチームの合宿地選考における意思決定プロセスの検討: 高校・大学スポーツチームに着目して. スポーツ産業学研究22(1): 9-27.
Song, H. 2012. Tourism Supply Chain Management. London:  Routledge.

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© 2016 公益社団法人 日本地理学会
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