日本地理学会発表要旨集
2016年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: S0105
会議情報

要旨
大豊町における過疎山村の現実と新たな林業の可能性
*岩崎 憲郎
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

1.山村の現実
大豊町は四国の中央部に位置し,面積315㎢の急峻な地形に約4,000人が暮らし,ほとんどが山腹にある85の集落からなる.平地が全くなく町域の約90%を山林が占めていることから,町民は少ない農地を耕し,森林の恵みを生かす生産の営みにより,生活を支えてきた.しかし,人口の高齢化は更なる過疎化を加速させ,2015年の国勢調査では5年間で約16%の減少を示した.急激な過疎の進行と同時に進む高齢化率は55%を超え,山村の現実は更に厳しさを増している.

2.山村の暮らし
山村における日々の「生活の営み」や「生産の営み」は,自然環境とともにあり,人々の生活は自然の営みの一部でもある.その営みにより守られ,維持されている公益的な機能は,山村住民の生活を支えているだけでなく,下流域に位置する都市住民の生活をも支えており,山村住民の営みなくして守れるものではない.山村住民が安全で安心して暮らし,日々の穏やかな生活や力強い生産の営みを続けるためには,山村の問題を山村だけの問題とするのではなく都市部を含めすべての人々が,それぞれの立場から考え行動していく必要がある.こうしたことから,山村の営みを次の世代につないでいく必要がある.
環境の世紀といわれる時代を迎え,地球温暖化に代表される深刻な課題をかかえ,国民的な取り組みが求められている.それは,緩和策,適応策において,山村の営みを守ることの重要性,緊急性を国民的な課題として共有し,それぞれの地域においてそれぞれの立場からの積極的な行動が必要であるということである.

3.森林を活かす
大豊町の地域資源は,林野率90%,民有林の人工林率70%の「森林」以外にない.この「森林」を資源として地域の力に変えることができるかどうかが,町の将来を決めることとなる. 杉や桧の苗木を背負い,急峻な山を登り,土の少ないところには人力で土を運び植えた木が約50年生になっているが,今日の大豊町では木材代金よりも,伐採や搬出費用が多額を要する現実に直面している.それでも,地域の将来を決定づける貴重なそして唯一の資源である「宝の森林」の輝きを取り戻すことが,山村の営みを守り伝えていく上で最も重要な課題となっている.

1)木材加工
伐期を迎えている森林資源を活かすためには,本来の目的である用材としての活用が基本となる.大豊町では,膨大な蓄積量を誇る森林資源と大量消費を直結するパイプとして大型製材工場を誘致し,年間10万立方メートルの木材を製材し,出荷する計画をスタートさせた.また,低質材の効率的な利用を推進するため,木質チップ工場を誘致し,年間6万立方メートルの木材加工に向けた取り組みを開始させた.これらの取り組みを通して,大豊町では木材のすべてを使い切ることから林業を再生させ,植える,育てる,伐る,使う森林の営みを通じて環境財,経済財として機能の高い森林を再生させることを目指している.

2)木造ビルディング
木材需要の増大に向けた新しい木材の利用方法として,CLT(クロスラミネーティッドティンバー)工法による木造ビルディングへの取り組みを始めた.この技術を導入することで,都市部の鉄筋コンクリートビルを木造ビルディングに変えることにより,「コンクリートの林」を「森林」へと変えることで,木材需要を飛躍的に伸ばす可能性が生まれてきている.高知おおとよ製材の社員寮は,日本初となるCLT工法による3階建て木造ビルディングとして建造した.大豊町では,この工法の普及による産業化を推進するため,国の木造建築基準の見直しや東京オリンピックの選手村への建築を要請するなど,新たな木材需要の開拓を目指している.

3)木質バイオマス
再生可能エネルギー分野への取り組みとしての木質バイオマス発電について検討を進めている.この発電は,他の再生可能エネルギーと異なり,植林,伐採,搬出,運搬,燃料加工など,多くの雇用が生まれる可能性があり,国民による電気料負担によって森林の整備が進み,結果として環境機能の高い森林づくりが進むとともに,広く国民に公益的機能を還元できることにつながる.

4.まとめ
人工林率70%の民有林のほとんどが伐採適期を迎えており,原木増産に向けすべての木を集荷,選別し,安定的な供給を目指す基地として,原木ストックヤードの建設を計画している.団地化による効率的な施業の推進,自伐型の林業に対する支援制度の拡充が企図されており,環境世紀にふさわしい,森林資源を活かした元気な山村の再生を目指して,様々な取り組みを進めている.

著者関連情報
© 2016 公益社団法人 日本地理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top