日本地理学会発表要旨集
2016年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: S0106
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要旨
地域おこし協力隊の活動と農山村の価値の再発見
*馬袋 真紀
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抄録

1.地域おこし協力隊
地域おこし協力隊とは,都市地域から過疎地域等の条件不利地域に生活の拠点を一定期間移し,地域協力活動を行うもので,平成21年度に総務省が創設した制度である.活用している自治体に対して隊員の報償費や活動に要する経費が特別交付税により財政措置(上限400万円/人)される.平成26年度には,全国各地の437自治体で1,511人の地域おこし協力隊が活躍しており,平成27年度には2,000人を超すと言われている.この地域おこし協力隊は,地方で自身の力を活かしたいと思っている人と,斬新な視点で新たな風を期待したい地域と,そういった柔軟な地域活動を応援したい行政の三者の思いが合致することで成立する取り組みである.
2.地域おこし協力隊の活用
地域おこし協力隊をどのように生かしていくのかは,自治体に委ねられている.その活動は,地域ブランドの開発・販売や地域情報の発信などの地域おこし支援活動や,起業,農林水産業への従事,生活支援など幅広く,その活動の成果とされるところも異なる.どんな場合であっても,隊員と地域と行政の三者の思い(目的,将来目標など)を一致させておくことが大切である.
3.兵庫県朝来市の事例
平成17年4月に朝来郡4町が合併して誕生した朝来市(平成27年12月末現在人口31,854人,高齢化率32.37%.旧山東町が過疎地域指定)は,人口減少・少子化・高齢化を抱える中山間地域であり,従来の集落単位の地域自治の仕組みでは限界を感じ,平成19年度から小学校区単位の新たな地域自治組織である地域自治協議会を設立し地域づくりを展開している.この地域自治協議会を地域協働のまちづくりの基盤として位置づけており,それぞれの地域自治協議会では,「地域まちづくり計画」を策定し,地域住民で地域の将来像を共有し,その将来像に向かって,市民の自律と共助(絆力)により,主体的に地域課題の解決に向けた活動を展開している.この地域自治協議会が,地域おこし協力隊の活動のベースとなり,地域課題の解決に向けた取り組みの一部を,地域住民と地域おこし協力隊とが一体となって取り組んでいる.そうすることで,地域おこし協力隊の目標や活動そのものが,地域の目標となり,地域と地域おこし協力隊が一緒に取り組むことで,協力隊の自立だけでなく地域力の向上につなげている.そのためには,活動のベースとなる地域自治協議会は,一緒に取り組む活動を明確にするだけでなく,住み慣れない地に住まいを移し活動をしようとする隊員の人生の選択に対して応援し,隊員の自立に向けて一緒に取り組む覚悟を持つことが必要である.また,行政は,隊員にとっても地域にとっても活動しやすいように,隊員自身の思いを引き出し,それを地域の思いにつなげ,お互いの将来目標に向かって体制を整える役割がある.こうして,隊員と地域と行政の3者の思いの共有により,それぞれの力が引き出され,地域力の向上につなげ,隊員の活動により様々な地域の歯車が回っていくようになると考えられる.
4.地域の誇りを取り戻す
地域おこし協力隊の地域での活動は,地域住民にとって自分たちが「あたりまえ」だと思っていることが「価値があること」だとわかり,その感覚が新鮮に感じ,地域への「感謝」の気持ちに変わっていった.それは,自分たちのまちの価値を再確認し,地域への誇りを取り戻し,さらに活動へつなげる原動力につながっている.また,隊員は活動を一緒にする仲間たちや,伝統的な技を惜しみもなく教えてくれる年配の方がなど地域の「人」に魅力を感じ,それを情報発信したり,隊員が持つ人脈とつなげたりすることで,地域住民は客観的に自分たちを見ることができ,自分たちが普段何気ない暮らしや,創り出しているモノの価値を知り,自尊心を取り戻すきっかけにもなっている.活動を通してお互いを尊重しあえる関係は,互いの思いを引き出し,力を引き出しあえている結果であり,地域おこし協力隊の制度を活用している全ての地域で共通していえることではない.
5.先駆者となる地域おこし協力隊
自分らしさが発揮できるいきいきとした地方での暮らしは魅力的であり,地域おこし協力隊がその生き方のイノベーターとなっており,隊員が農村の価値を発信することで追随者を呼び寄せている.その一方で,隊員は移住者として歓迎されながらも集落をかき混ぜられないかと不安を抱える住民も少なくはない.それゆえ,移住者の先駆者として隊員の集落の入り方,暮らし方,活動などは重要である.したがって,地域おこし協力隊の制度の一部だけを切り取り活用するのではなく,地域の将来像をみつめ制度を活用することが重要である.

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