日本地理学会発表要旨集
2016年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P083
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要旨
2010年国勢調査における「不詳」の地図
*埴淵 知哉中谷 友樹村中 亮夫花岡 和聖
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抄録

地域を俯瞰的に把握する基礎的データとして、『国勢調査』は不可欠である。小地域集計データによる詳細な地理的変動の把握は、それ自体が地理学的関心の対象となるうえ、近年では、隣接諸科学においても広く応用されている。しかし、近年は「不詳」(非回収・未回答)の増加が問題視されており、2010年調査では「教育」に関する不詳割合が10%を超えるに至った。この「不詳」の地理的分布に偏りがある場合、本来とは異なる擬似的な地域差や地域指標間の関連性が誤って観察される可能性が否定できない。悉皆調査ゆえに各種調査の基準となってきた国勢調査についても、その調査誤差の地理的側面を確認しておく必要がある。そこで本発表では、2010年国勢調査における「不詳」の地理的分布とその規定要因などの分析結果を報告する。

最も不詳割合の高い項目である「教育(卒業学校の種類)」を例にとると、東京都の27.8%から福井県の2.8%まで大きな地域差がみられる。これを市区町村単位でみると大阪市浪速区(45.2%)から不詳者ゼロの町村まで差が大きくなり、さらに町丁・字等単位では不詳割合は0~100%の範囲に拡がる。さらに、不詳の分布は地理的にランダムではない。回収率の規定要因とされる都市化の度合いについてみると、農村に比べて都市部の不詳割合が高く、これは都道府県、市区町村、町丁・字等を単位とするマルチスケールで観察される。ただし、このような都市化度の効果を考慮したうえでも、町丁・字等の不詳割合には市区町村レベルでの有意な地域間分散が残される(マルチレベル分析の結果)。地図からも読み取れるように、不詳割合の地理的分布には都市化度と関連する傾向がみられると同時に、市区町村の境界で大きく変動する特徴を持つ。これは、調査員の選定から補記作業に至るまでの各種実査業務において、自治体間の差が大きく、それが不詳割合の地域差という形で反映されたものと考えられる。

以上の結果に鑑みると、国勢調査は悉皆調査として設計されているものの、対象地域や項目によっては調査誤差が大きく、その誤差自体が地理的に偏りを持っている可能性を否定できない。したがって、特に都市部で小地域集計データを用いた地域分析を実施する場合には、標本調査と同様に調査誤差や調査法の影響に留意しつつ、不詳の影響を考慮する必要がある。発表当日のポスターでは、地域分析への具体的な影響の確認も含めた結果の詳細を掲示する。

※本研究はJSPS科研費(25704018)の助成を受けたものです。

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