日本地理学会発表要旨集
2016年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 617
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要旨
新潟県における清酒業の存続への対応形態
*宮坂 諒
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抄録

1.問題の所在
日本における清酒業は,1970年代をピークとして,酒類消費嗜好の多様化や酒税法の改正等からビール,ウイスキー,ワイン,焼酎等,清酒以外の酒類にシェアーを奪われる「清酒離れ」が進み,清酒需要は停滞・低迷し,生産量(製成数量)は1973 年度の1,421千klをピークに447千kl(2014年度)へ,また製造免許場も1956年度の4,135場が1,785場(2014年度)へと減少,近年では産地・業者間競争の激化からその再編成が顕在化している。この再編成では,灘・伏見などの銘柄産地や大企業が競争を優位に進め,集中度を高める一方,中小産地・業者は顕著な衰退を示している。ただし中小産地・業者の中には,経営の維持・発展に成功した事例も少なからず存在する。そこで本報告では,兵庫県・京都府に次ぐ生産・出荷量を持つ,日本における代表的な中小清酒産地である新潟県を事例に,清酒業の存続への対応形態を考察する。
2. 研究対象地域の概要  
本報告で対象地域とする新潟県は,全国最多の免許場数を持ち,出荷量は主産地である兵庫県・京都府に次ぐ全国3位で,日本における代表的中小産地といえる。当該地域における清酒業は,酒造に適した水,豊富に生産される米,農閑期の労働力,寒冷な気候などを立地条件として成立した。昭和期には2級酒を中心に生産する産地として発展し,また周辺に大産地が立地しないことから,桶売り・桶買い(未納税移出入)は少なかった。現在,当該地域においても全国的な清酒需要の低迷を受け,生産量・出荷量ともに減少傾向にあるが,その減少率は全国的に見て低い。
3. 昭和期における存続への対応形態  
1962年の酒税法の改定と,1969年の生産の自由化は,産地・業者間競争を,特に中小産地間において激化させた。 当該地域では,他地域との差別化をはかり,酒造組合と醸造試験場が,県産水や県産米に適した酒質(淡麗)への統一,高品質・高付加価値な質重視の酒造りへ誘導し,多くの県内企業もその方針に従った。この当該地域で生産される清酒の淡麗化・高品質化は,1980年代以降の全国的な「淡麗辛口ブーム」の端緒となり,当該地域は,高品質で淡麗な清酒を生産する地域としてのブランド力を獲得,その結果1996年まで当該地域の出荷量は増加傾向にあった。
4. 現在における存続への対応形態  
現在,当該地域の多くの企業では,一層の特定名称酒などの高付加価値製品や,高精白米による高品質製品の生産特化により存続をはかっている(特定名称酒出荷率:新潟県64.4% 全国29.9%,平均精米歩合:新潟県58.1% 全国66.2%)。一方で,産地としてのブランド力の高さから近年,他県・他業種資本の参入が増加しており,県内の約20%の企業は,他県・他業種企業の支援を受けるか,子会社・関連会社になることによって蔵や銘柄の存続をしている。
5. おわりに  
新潟県清酒業は,現在に至るまで,酒造組合・醸造試験場主導のもと,技術を生かした高品質・高付加価値製品への特化によって,産地としてのブランドを構築し,存続している。しかし,近年の他県・他業種資本の参入が,従来の産地としての同一行動や,酒質の統一を困難にしている。

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© 2016 公益社団法人 日本地理学会
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