日本地理学会発表要旨集
2016年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 813
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要旨
栃木県鬼怒川流域における宝積寺段丘の離水年代の再検討
*塩谷 純佳鈴木 毅彦
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抄録

1.はじめに
関東周辺には第四紀火山が多く分布しており,同地域の地形面の多くはテフロクロノロジーによって離水時期などが求められている.その結果,多くの段丘面では貝塚(1957)に示された氷期・間氷期サイクルと段丘形成の関係が見出されている.
宇都宮市周辺では鬼怒川に沿って段丘が発達し,高位から飛山・上欠面,宝積寺面,鹿沼面,岡本・大和田面,峯町面,宝木面,田原面と区分されている(鈴木 2000).本地域ではローム層中に多くのテフラが見出され,真岡軽石(MoP)より上位のテフラに関しては給源火山や分布が詳細に明らかになっている(鈴木 2008)が,その下位のテフラについては未だに不明確なものが多い.中期更新世に離水したとされる宝積寺面は,それを覆う上位のMoPと,覆わないより下位の塩原大田原テフラ(Si–OT)によって大まかな離水時期が示され,鈴木(2000)ではMIS8とされている.しかし,氷期・間氷期サイクルと離水時期との関係は十分に議論されていない.そのため,本研究では宇都宮地域における中期更新世のテフラを整理し,高精度な年代軸を挿入することによって宝積寺段丘の離水年代を再検討した.
2.研究手法
国土地理院公開の5m–DEM,空中写真を用いて段丘区分後,現地調査を行った.飛山・上欠面において採取したテフラ試料は椀がけ法で洗浄後に風乾させた.その後,鉱物組成,重鉱物の屈折率,カミングトン閃石・ホルンブレンド・チタン磁鉄鉱の主成分化学組成を分析した.
3.結果
宝積寺面よりも高位の飛山・上欠面を被覆するロ–ム層中(MoP~Si–OT間)からカミングトン閃石を特徴的に含む飛山1–G,上欠1–G’,およびその下位にホルンブレンドを特徴的に含む飛山1–A・上欠1–A’を検出した.
1)カミングトン閃石含有テフラ
飛山1–G・上欠1–G’はカミングトン閃石の屈折率がそれぞれ,1.661—1.668,1.662—1.666であり,菅平第2テフラ(SgP-2)の屈折率(1.662–1.666)と類似する.また,カミングトン閃石の主成分化学組成は飛山1–G,上欠1–G’,SgP-2間でいずれも酷似する.従って,飛山1-G,上欠1-G’はSgP-2と対比できる.
2)ホルンブレンド含有テフラ
飛山1–A・上欠1–A’はホルンブレンドの屈折率がそれぞれ,1.677–1.684,1.678–1.685であり,四阿蓑原テフラ(Az–MiP)の屈折率(1.676–1.684)と類似する.両テフラ中に含まれるホルンブレンド・チタン磁鉄鉱の主成分化学組成は分散するものの,1/3以上の粒子がAz-MiPのその分散域と重なることから,飛山1–A,上欠1–A’はAz–MiPと対比できる.
4.考察
MoP~Si–OT間でSgP-2,Az–MiPが挟在していること,MoP~宝積寺礫層間にカミングトン閃石が確認されていない(山元2006,2013)ことから宝積寺段丘面の離水時期はMoP~SgP-2間であるといえる.SgP-2は阿多鳥浜(240 ka)の直上にあり,その噴出年代は240 kaと考えられる. MoPの噴出年代には150~200 ka(鈴木 2011)と220~230 ka(山元 2007)があり,見解に違いがある.それぞれの年代から判断すると,離水時期は150~240 ka,または220~240 kaとなる.
そこで, Az–MiP,MoPの上位に位置し,同調査地点で観察される赤城鹿沼軽石(Ag–KP,44.2±4.5 ka;青木ほか 2008)や御嶽第一テフラ(95.7±5.3 ka;青木ほか 2008)の直下に位置する日光満美穴テフラ(Nk–MA)からSgP-2までのロ–ム層の厚さから堆積速度を求めて離水年代を推定した.Nk–MA~SgP-2間のローム層の堆積速度は7.6~8.2 cm/kyrとなり,これに基づくと宝積寺面の離水年代は220~222 kaとなる.この堆積速度からMoPの年代を求めると154~161 kaとなり,鈴木(2011)の年代の範囲内に入る.また,Ag–KP~SgP-2間の堆積速度は7.4~7.8 cm/kyrとなり,離水年代は219~222 kaとなる.以上の点から離水年代は219~222 kaと求められる.加えて,宝積寺段丘面の勾配が間氷期に離水した峯町面の勾配,および後氷期である現河床の勾配と類似するため,宝積寺面の離水時期はMIS7の間氷期であると推測される.

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